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三十二話 [包帯男の独白] ページ34

第一印象は綺麗な子。
ただそれだけだった。



「嗚呼…逃げられた」



特に特別な感情も無ければ、彼女の本質になど興味もなかった。



「だけどなァ…」



倉庫で彼女は言った。



『理解者が居なくても生きていけるんだよ』



その時、太宰は彼女の本質を垣間見た気がした。
強く居ようとして、脆さを隠した少女の姿。
他人を嫌っているのに、本当は嫌いたくない葛藤。
壊れそうなその姿に言いようのない感情が湧き上がった。



「あれがきっかけかな」



虎に襲われた時、彼女は叫んで居た。
生きたいと。そう彼女の心は叫んだ。
壊れそうなのに、生を望む。
彼女は傷だらけになりながら茨の道を歩んでいる。



「誰からも理解されず…そして他者を信じることが出来ない少女…」



まるでかつての自分のようだ。
周りが全て異物に見えた過去の自分。



「それでも生きようとするんだね…君は」



Aを自身の部屋に連れて行った時、彼女は眠りながら泣いて居た。



『一人は嫌だ…』



子供のように泣くその姿に抱いた感情はなんだったのか。
同情?哀れみ?それとも加護欲?
だれにも当てはまらない感情だった。



『君は一人じゃない』



魘される彼女の頭を撫でる。



『私が守ってあげよう』



無意識のうちに口から溢れた言葉だった。
根拠も自信もない言葉。
その時はそれで良かった。
でも、



『貴方の生にも意味がある』



そう彼女が云った時、
太宰はその姿に目を奪われた。



「綺麗だったなぁ…」



生きていくのが辛いくせに、彼女は真っ直ぐな意志でそう云った。
凛として、そして美しかった。
汚れを知らない傷だらけの少女に心を奪われたのだ。



「嗚呼欲しい」



その濃紫の瞳で自分だけを見て欲しい

その声で自分だけを呼んで欲しい

その心を…自分だけに見せて欲しい



「国木田君、私が追うよ」



初めてだった。
ここまで他人を欲したのは。



「彼女が誰かのモノになる前に…私のモノにしなきゃ」



守りたい、助けたい、知りたい。
さまざまな感情が渦巻き、胸を高鳴らせる。
今はまだこの感情の正体を隠しておこう。



「さぁて、彼女を探さなくては」



必ず彼女を手に入れてみせる。
そう誓って、彼は探偵社の扉を開いた。

三十三話 [路地への案内は]→←三十一話 [少女の出した結論]



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太宰の包帯希望者 - シリアスううううう!めっちゃ好みです!更新頑張ってください (2月5日 22時) (レス) @page21 id: efd9a7d1a1 (このIDを非表示/違反報告)
条野さんの鈴飾り食べたい - ネタが思いつかないので申し訳ないのですがこちらの『この世界で生きるのは不可能という結論が出ました』の小泉ちゃんとコラボさせて貰っても宜しいでしょうか?誠に勝手で申し訳ございません。 (2022年12月17日 11時) (レス) id: 36ec43f1b9 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 碧さん» ご指摘ありがとうございます。実はあえて意味がおかしい英語にしています。その話自体がギャグのような内容なので、正しい英文より、日本語に直すと面白い英文の方が良いかと思い、あえて間違った内容にしております。 (2021年12月14日 7時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 二十三話太宰の中のドラムになってませんか? (2021年12月12日 18時) (レス) @page25 id: 6588339009 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ルチアーノさん» ご指摘ありがとうございます。直しておきます。 (2021年3月23日 20時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年3月11日 14時

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