ノスタルジア (ページ1)

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私に東京は向いていないと思う。
人混みに居ても孤独を感じるし、家に帰ってもどこかに帰りたいような気持ちになる。

就職と同時に上京して2年が経とうとしていてこの暮らしにもすっかり慣れた。不本意に慣れてしまった。

自炊しようと張り切って借りた広めのキッチンはまっさらなままでスーパーやコンビニでご飯を済ませる毎日。
美味しいけれどなにか満たされない、かと言ってお弁当を作る余裕も技術もなかった。

｢まぁたコンビニ飯〜？｣

デスクでお馴染みのご飯を食べていると、同期の松田が私を覗き込んで笑った。

彼の手には可愛らしいランチバッグが握られている。その中に女の子の手作り弁当が入っていることは知ってる、作ってくれるその女の子がいつも同一人物じゃない事も。

｢コンビニなめんな、松田は手作り弁当？｣
｢今日はカナちゃん！…あれサナちゃんだったっけ」
｢そのうち刺されるよ｣

艶やかな黒髪がLEDに反射して光る。

同期で入社した松田元太はいつも人々の輪の中心人物で、人の懐に入るのが上手で誰からも好かれている。

新人俳優です！と言っても忖度ない爽やかなビジュアルと分け隔てない明るさで、社内にも社外にも何人か関係を持っている女の子が居るという話を本人から度々聞く

本人は｢特定の女の子を作んのメンドイもん〜｣とあっけらかんに笑っていたような気がする。

｢Aだってカレシに弁当作んねーの？｣
｢最近連絡取ってないんだよね｣
｢エー、ヤバいじゃあん」

悲壮感が無さすぎる松田の声を苦笑いで受け流す。

学生の頃から付き合っている1個上の彼氏とは、松田に言った通り連絡とってないし、私が上京したため月に1回程度しか会わなくなっていた。
彼のことを好きでは無い、訳ではないけど会えない日々が続く中で関心が薄くなってきている

好き、の反対は嫌いでは無関心。という言葉を思い出して、それをかき消すように白米を口に入れた