【gr】1人で帰れますが、 ページ12
誰も居ない教室は数時間前とは全然別の場所みたいに感じて、私だけしか今この瞬間のこの場所を知らないんだっていうどこか背徳感にも似た優越感を感じる。
さっきまで忙しなく色を変えていた教室が急に色を失って夕焼けに染まっていく様が好きで、適当な言い訳をしてはいつも放課後はここに居座っている。
きっとそんなもの好きは私だけなんだろうな、そう自嘲気味に笑って自分の席に座りながらベランダの外を眺めた。
窓側の列の前から３番目。冬は窓の近くで冷気が障るけど、日差しに温かさが含まれ始めた最近はどうにも心地いいこの席から離れたくない。
マフラーに首をうずめてぼーっと外を眺めているとガラガラと扉の空く音が聞こえて振り向く。
最終下校時刻１０分前を告げるチャイムが流れた後もここに居座っている私に対して見回りの先生が一声かけようとしてきたんだと思った。
最近帰りが遅いと母からの小言が増えているからついに家から電話が入ったのかなって。過保護っていうか、そういうのうるさいから、あの人。
そう思っていたのに教室に入って来たのは、クラスメイトの男子だった。
えっと、名前はなんて言ったかな。ほら、前の席に座っている、
『......グルッペンくん？』
記憶をかき回してようやく出てきたその名前を口に出す。
｢...名前知ってたんだな｣
よほど私が名前を憶えている事に驚いたのか、彼の声は少し擦れていた。
『前の席だからね。それに、よく君の友達が君の事をそう呼んでるから』
｢...覚えられてないと思ってた｣
まぁ、記憶をひっくり返してかき回してようやく出てきたそれを覚えているなんて形容するのは違う気もするけど、言葉には出さずに彼に曖昧な笑みを返した。
私が曖昧に笑った意味を察したのか彼は何も言わずに、自分の机の中から教科書やノートなんかを取り出して鞄の中に仕舞っていく。
『え、偉』
重いから絶対持って帰らない主義を決め込んでいる私とは真逆の彼に感嘆の声を漏らしてしまった。
小声で呟いたが、きっと前の席の彼には届いてしまったのだろう。私の言葉に何を返してくるわけでもないが、確かに彼の耳は薄く赤に染まっている。
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杏夏(プロフ) - 山田の家さん» レス遅くなって申し訳ありません。コメントありがとうございます。好きだなんて私にはもったいないお言葉、大変痛み入ります。まだまだ 月が綺麗ですね は続きますので楽しんでいただけますと幸いです。 (2020年11月7日 18時) (
レス) id: 516edf94d7 (このIDを非表示/違反報告)
山田の家 - 続編おめでとうございます！あぁ、やっぱりすんごい好きです。 (2020年10月18日 19時) (レス) id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杏夏 | 作成日時：2020年10月18日 19時
