アメフリレインボウー2ー (ページ48)

今日:2 hit、昨日:8 hit、合計:58,959 hit

#48 After the rain ページ48

.

夜、当然のようにかかってきた永瀬くんからの電話に

戸惑いながらも応答ボタンに手を翳せば

最初に耳に届いたのは深い溜め息だった。

『やっっっと出た。』

「ごめん。」

『さすがの俺でもフル無視は傷ついたわ。』

「…ごめん。」

よく考えれば、直接関わらなくとも

電話くらいならよかったんじゃないかと思いつつ

そんな詰めの甘さが命取りになるんだと思い直す。

『あのさ。受かった。大学。』

てっきりもっと違う話をされるのかと思っていた。

最後に会った日、彼から逃げるように去ったこととか

ずっと電話にも出なかった理由とか。

「おめでとう。」

『うん。これでとりあえず安心やわ。』

すごいなあ。

もう既に立派にお仕事をしてるのに

大学まで行っちゃうんだから。

「そっか…仕事してるから安心、ではないんだよね。」

『あと俺の場合、なかなか覚悟が決まらんのよ。

ありがたいことに今は仕事もらえてるけど

それがいつ終わるかわからんし先が見えなさすぎて。

不安なまま普通の生活が遠のいてくのも怖いから。』

だから選択肢は増やしとかんと──

冷静で俯瞰的で廉直で。

やっぱり私は、彼には敵わない。

『Aちゃんは？進路どうなったん？』

「一応、調理の専門。」

『もしかしてパン屋になるん？』

「そこまでは考えてないけど…」

『もしなったらさ、Aちゃんが作ったパン

俺が一番に食べたるから教えてな。』

社交辞令、みたいなものだろうか。

そんな約束、できるわけがないのに。

「米派じゃなかったっけ？」

『それとこれとは話は別やろ。』

こんな他愛もない会話が、懐かしく感じる。

ずっと、あたりまえじゃなかった。

だけど、気づいたらあたりまえになってた。

そしてまた、あたりまえじゃなくなった。

そう、元に戻っただけなんだ。

還るべき場所に、運命がそうさせたんだ。

最初から期限が決まってた。

ちょっと時間の長い砂時計をひっくり返しただけ。

『そういやさ、あいつ、意外と良い奴やな。』

「あいつ？」

『中濃ソース。あ、特濃になったんやっけ？』

「髙橋くん？…と、何かあったの？」

『まあ、この前ちょっと話しただけ。』

いつ、どこで、どうしてそんな場面が作り出されて

どんな話をしたのか

頭の片隅に過ぎっただけで、私は何も聞かなかった。

.