#find out.26 ページ26
.
「平野さーん、聞こえますかー？」
「平野くん！」
「紫耀！」
病室に騒々しく飛び交う名前に
目の前で横たわる彼の顔は苦しそうに歪んでいた。
看護師さんと医師の先生が慌ただしく動き回る
ベッド周辺のその一歩後ろで
私たちはただ必死に彼の名を呼び続けた。
お願い…戻ってきて…
「平野くん！……平野くん！」
どうか、この声が彼に届きますように…
そう、精一杯の祈りを込めて。
.
「平野さん？ わかりますか？」
一段と力強く響いた先生の声。
思わずベッドの側まで駆け寄って
彼の顔を覗き込むように近づいた。
そして、僅かに瞼が揺れたあと
そっと開かれた瞳に、小さな光が宿る。
「平野くん…！」
その声に反応するように
ゆっくりと動かされた瞳の中には
確かに私の姿が映し出されていた。
『A…ちゃん……？』
この声を、音を、響きを
どれだけ待ち焦がれただろう。
いつにも増して掠れた声が私の名前を呼んだとき
声にならない込み上げてくる想いに
ただただ必死に首を縦に振った。
留まることの無い涙を我慢する理由もなくて
溢れるものを流れるままに流した。
「起きるのおせーよ、紫耀」
隣で神宮寺がこぼした声が震えていた。
そして目の前の彼は
弱々しく、優しく、頬を緩ませた。
.
『Aちゃん泣きすぎだよ。目真っ赤だよ？』
一通りの検査を終えた平野くんが
ベッドの上で上半身を起こしながら
少し困ったように笑う。
「だって…っ……ほんとによかった…」
いつのまにかティッシュ係になっていた神宮寺から
また新しいティッシュを受け取って
目から鼻から出るものを拭き取っていく。
検査の結果なんの問題もなければ
数日で退院できるという先生からの話を聞いて
まだ完全に安心できる状況ではないものの
意識を取り戻して今こうして笑っている
彼の姿を見られることが本当に嬉しくて
平野くんが生きてくれているのなら
もう他に何もいらないんじゃないかとさえ思えた。
『俺も…Aちゃんが無事でよかった』
そっと向けられた変わらない優しい眼差しに
胸がキュッとなる。
「平野くんのおかげだよ。本当にありがとう」
ありったけの気持ちを込めてお礼を伝えれば
平野くんはふんわりと微笑んだ。
.
#find out.27→←#find out.25 ーShoー
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 644人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
7日目の蝉(プロフ) - lemon09さん» lemon09さんコメントありがとうございます！めちゃくちゃ嬉しいです…！そう言ってくださる方がいて本当によかったです。読んでくださってありがとうございました！ (2020年12月10日 22時) (
レス) id: 8841233121 (このIDを非表示/違反報告)
lemon09(プロフ) - 急に終わってしまって寂しくなっちゃいました（笑）でも面白かったです、お疲れ様でした。 (2020年12月9日 4時) (レス) id: 2975f730a7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：N | 作成日時：2020年3月12日 1時
