#find out.18 ページ18
.
ゴンドラはいつのまにか頂上を越えて
今度は地上へ向かってゆっくりと下っていく。
『俺はさ、Aにちゃんと笑っててほしい』
「……え？」
『怒った顔も、そのビミョーな顔も嫌いやないけど
やっぱ笑っとるのがいちばんやろ』
頬を包んでいた手の温もりが一度離れると
涙で濡れたほっぺたをギューッと摘まれる。
「い…痛いよぉ」
『痛ないやろ、あほ』
もう一度頬を拭ったあと
スッと離れていった手と、再び外に向けられた視線。
また一段と暗くなった空の下を
立ち並ぶ建物から漏れる光が淡く照らし出していて
目の前の横顔からわずかに覗く薄茶の瞳は
その光を映しているからなのか
一瞬、キラリと小さく揺れた気がした。
『ここから降りたら、Aはもう自由やから』
だからもうそんな顔すんな
そう言って僅かに上がった口角と
ほんの少し下げられた眉。
ねぇ、廉。
ずっと私をいちばん近くでよく見てくれていたのは
他の誰でもない、廉だったね。
だけど私の気持ちをわかってくれているんだとしたら
廉はきっと少しだけ勘違いしてる。
私は窮屈なんかじゃなかった。
廉に何もしてあげられなかったけれど
廉を傷つけてばかりだったかもしれないけれど
廉がいてくれて、何度も救われた。
廉と一緒だったから、暗闇に閉ざされることなく
胸の中にあたたかい光が灯ってたんだよ。
だからどうか自分を責めたりしないで
「廉こそ。」
『えっ？』
「そんな顔しないで？」
驚いたように大きく見開かれた瞳には
やっぱりキラリと光るものがあって
「廉には、感謝しかしてないんだから」
ゆらりと揺れた光を瞼が覆うと同時に
左手で目を擦るようにサッと顔を拭った廉は
いつものお得位の自慢気な笑顔を私に向けた。
『あほ。わかっとる言うたやろ』
そこにはもう、なんの混じり気もなく笑う廉がいて
それに応えるように私も精一杯笑ってみせた。
「ごめんね、廉。……ありがとう」
地上に着く頃、ふいに視界がパッと華やいだ。
辺りを見回せば観覧車がライトアップされて
藍色の空に大きな花火が打ち上がったように
色彩やかにキラキラと光り輝く。
『このタイミングかよ！』
��お疲れ様でした〜��
甲高い声と共に鈍い音をたてて開かれた扉。
そして、新たな空気が吹き込んだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 644人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「平野紫耀」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
7日目の蝉(プロフ) - lemon09さん» lemon09さんコメントありがとうございます！めちゃくちゃ嬉しいです…！そう言ってくださる方がいて本当によかったです。読んでくださってありがとうございました！ (2020年12月10日 22時) (
レス) id: 8841233121 (このIDを非表示/違反報告)
lemon09(プロフ) - 急に終わってしまって寂しくなっちゃいました（笑）でも面白かったです、お疲れ様でした。 (2020年12月9日 4時) (レス) id: 2975f730a7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：N | 作成日時：2020年3月12日 1時
