#find out.1 ページ1
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薄明かりの廊下に乾いた足音が響く
人気の少ない夜の病院は
ひんやりとした空気に包まれていた。
退院の許可が下りたその足で向かった病室に
近づくほどに胸がうるさく波打つのを感じながら
辿り着いた扉の目の前。
すぐ横に掲げられている小さなプレートに書かれた
��平野紫耀��の文字を確認すると
胸がキュッと締め付けられるのを感じながら
一度ゆっくりと深呼吸をした。
まだほんのり赤く重い瞼を持ち上げて
そっと伸ばした手で小さくノックをする。
返事の返ってこない扉の向こう側。
冷たいシルバーの取っ手を握りしめると
その空間へと静かに足を踏み入れた。
同じリズムで淡々と刻まれる機械音だけが
虚しく鳴り響く部屋の中
すぐに視界に映ったベッドへと近づいていく。
怖れる気持ちを堪えながら歩を進めた先には
たくさんの線を体に繋がれて
静かに横たわる彼の姿があった。
「平野くん……」
頭に巻かれた包帯。頬に貼られた大きな絆創膏に
袖から覗く逞しい腕にはたくさんの切り傷。
小さな顔を覆う呼吸器。
不意に頭の中に蘇る光景が再び胸を締め付けていく。
「ごめんね……」
私のためにこんなに傷だらけになって
守ってくれて、助けてくれて
「……ありがとう」
包帯の巻かれた手にゆっくりと自分の手を重ねると
指先から僅かに伝わる体温が
ほんの少し心を和らげてくれた。
眠っているような穏やかで優しい表情。
それは間違いなくいつもの彼のもので
神宮寺の言っていた通り、きっとすぐに
目を覚ましてくれるんじゃないかと思えた。
私ね、平野くんに伝えたいことがあるんだ。
伝えなきゃいけないことがたくさんあるんだ。
君は知ったらびっくりするかな？
またいつもみたいに、こっちが驚くくらいの
大きなリアクションをみせてくれるのかな？
私はそんな君を見て笑うんだろうな。
そしたら君がまた笑い返してくれる。
そんな些細なことが
何よりも嬉しくて、幸せなんだ。
これから先もずっと
その気持ちを大事にしたいから。
もう逃げない。目を逸らしたりしないから。
だから、早く目を覚ましてね。
「寝すぎちゃった」なんて言って
また笑ってみせてね。
重ねた手のひらを握り締めて
祈るような思いで一度ぎゅっと力を込めると
その姿を目に焼きつけてから
静かに病室をあとにした。
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7日目の蝉(プロフ) - lemon09さん» lemon09さんコメントありがとうございます！めちゃくちゃ嬉しいです…！そう言ってくださる方がいて本当によかったです。読んでくださってありがとうございました！ (2020年12月10日 22時) (
レス) id: 8841233121 (このIDを非表示/違反報告)
lemon09(プロフ) - 急に終わってしまって寂しくなっちゃいました（笑）でも面白かったです、お疲れ様でした。 (2020年12月9日 4時) (レス) id: 2975f730a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：N | 作成日時：2020年3月12日 1時
