行ってらっしゃい ページ35
「A。愛してるわ。」
「Aは僕らの、自慢の娘だ。この先も、ずっと。」
「…私も、」
どんどんと遠ざかって行く大好きな人たちに
ちゃんと大好きが、届くように。
「私も大好き！お父さんとお母さんのことが、大好きなの！」
いつか遠い未来で、また会った時に
ちゃんと胸を張っていられるように。
「私、二人の子供でよかった。本当に本当によかった。だから私、頑張って生きる。いろんな思い出を、生きた証を、そっちに持っていけるように！」
とうとう見えなくなってしまったその光景は
真っ暗な、深い闇に変わって
「ほら、行ってらっしゃい。」
最後の最後、
そんな優しい声だけが
頭の中で柔らかく響いた。
“A。”
夢の中で私の名前を呼んだ声が
今ならもう、ちゃんと分かるよ。
“はじめまして！”
私たちは一体、
何度そんな挨拶を交わしたかな。
“だけど野坂くんが生きていれば、それを幸せだと思う人が未来で待ってる。絶対に待ってる。”
ほら、私が言った通りだったでしょ。
だって今までの私の幸せを作っていたのは
正真正銘、あなたの命だった。
“僕の心臓がいくつあっても、君のことを救えやしない。”
違うよ。
あなたはあなたの、たった一つの心臓で
私の心臓を動かしたの。
何度も一緒に、花火を観に行った。
あなたと行く箱根は、何度目でも楽しかった。
二人で見た景色は、一人で見る時の景色よりも
ずっとずっと美しかった。
「A。」
現実の片隅で、私の名を呼ぶその声が静かに聞こえる。
涙で震えて、掠れた声で
やっとそうやって呼んでくれたね。
私を名前で呼んでくれないかって
本当は、ずっと待ってたのよ。
「A…。」
次に身体に伝ったのは、その大好きな温度だった。
左手から伝う温もりが
今何よりも、あたたかい。
「僕を…もう、置いていかないで。」
あぁ、そうか。
私は何度も、何度も
この人を置き去りにして逝ったんだ。
寂しかっただろう。
悔しかっただろう。
だけどもう、大丈夫だよ。
私は今度こそ、いなくならない。
今回のは、嘘じゃないよ。
手の甲に、ぽつりと温い雫が落ちる。
一つ、二つ。そして、三つ。
それは私に向けられた、
あなたの想いの結晶。
だからちゃんと、応えなくちゃ。
そう強く思って
私は漸くゆっくりと、目を開ける。
その途端、両目の縁から涙がこぼれ落ちたのが
ハッキリと分かった。
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橋本アリィちゃん(プロフ) - とても泣けました！こんな感動作品を作って頂きありがとございました！今後とも応援しています！(*´ω｀*) (2021年11月4日 7時) (
レス) @page39 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
くゆぃ - この物語を生み出してくれてありがとうございます。余命あと1年で、辛くて仕方なかった時、まさに今、イナズマイレブンに出会って、野坂悠馬君が好きになって、あなたの小説を読ませていただきました。いなくなる前に、この小説を読めてよかった。よかった。ありがとう (2021年8月6日 23時) (レス) id: 47b282db84 (このIDを非表示/違反報告)
むい - ほんっとうにこの作品が大好きです！何度も泣かせていただきました。この小説が、命について深く考えるきっかけとなりました。最後に、本当に大好きです。ありがとうございました！ (2020年9月7日 14時) (レス) id: b5b9338b39 (このIDを非表示/違反報告)
ふるる。(プロフ) - 初コメ失礼します、ふるる。です！すっごくこの小説好きでした！命って大切だなと思ったし新しい生き方も学びました。完結おめでとうございます！ (2020年4月25日 10時) (レス) id: 28f80b2ad3 (このIDを非表示/違反報告)
岡部 愛(プロフ) - この作品であなたを知り、一気に最後まで読みました。しかし言葉が出てきません。とても好きで、好きだという気持ちをなんと表現したらいいか分かりません。この作品でたくさん泣きました。あなたの他の作品も是非読ませていただきます。 (2020年4月25日 8時) (レス) id: fa9bcb142e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2020年4月4日 9時
