検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:29,732 hit

迷子 ページ11

「あ、乃坂さん!」


食べるものを探し求めてキョロキョロとしていると、


自由には歩けないほどの人混みの中から、そんな声が聞こえた。


「瀬尾くん。偶然だねぇ、こんな時にすれ違うなんて。」


「ね。何買った?」


「とりあえずこれ!好きなんだよね、お祭りの日のりんご飴。」


「ははっ、いいね。…それは?」


彼は不思議そうに、私の左手に握られたガラス瓶を指さした。


「あぁ、これ?カレーパン味の…ラムネ。」


「えっ…美味しいの、それ。」


「うん、美味しいよ。意外と。」


そう平然と答える私に、彼は些か驚いたようだった。


たしかに、去年の私が彼と同じ立場だったら
そんなリアクションを取っていただろう。


「わぁ…飲んだことあるんだ。」


「……うん、多分…。」


「ははっ多分ってなんだよ。」


__________いや、飲んだこと、あったっけか。


こんな風変わりなもの。


なんだか当たり前のように手にとって、気づけば会計をすませていたけれど


確かに言われてみれば、変、だろ。


「…あれ?」


黙々と考えながら歩いて、顔を上げた時


気付いたら瀬尾くんの姿は見当たらなくなっていた。


考えごとをしながら歩いていたせいか、自分の居場所すらあやふやになっている。


「あちゃ…参ったな。」


携帯を見ても、人混みのせいか電波が悪くて繋がらない。


その上南ゲートが一体どっちなのか方向も全く分からないし、看板も一つとして見えなかった。


溜息をつきながらたまたま通りかかった出店で、とりあえず夕飯代わりの焼きそばを買ったものの


携帯の画面に刻まれる “18:58” という表示に、成す術もないまま焦っていた。


だけど、ここでいくら歩き回ろうと仕方がない。


焦りの中だったから尚更人混みに嫌気がさして、偶然見つけた屋台の出ていない細い道にひとまず避ける。


「…あ、ここ。」


偶然は時に、更なる偶然を呼ぶものだ。


それは、去年三人で花火を見たあの秘密の場所へと続く一本道だった。


一秒毎に確実に迫り来るその瞬間に急かされて
私は思わず、その坂へと足を掛けた。

花の前の一雫→←羊のじゅーこ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (121 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
308人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

橋本アリィちゃん(プロフ) - とても泣けました!こんな感動作品を作って頂きありがとございました!今後とも応援しています!(*´ω`*) (2021年11月4日 7時) (レス) @page39 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
くゆぃ - この物語を生み出してくれてありがとうございます。余命あと1年で、辛くて仕方なかった時、まさに今、イナズマイレブンに出会って、野坂悠馬君が好きになって、あなたの小説を読ませていただきました。いなくなる前に、この小説を読めてよかった。よかった。ありがとう (2021年8月6日 23時) (レス) id: 47b282db84 (このIDを非表示/違反報告)
むい - ほんっとうにこの作品が大好きです!何度も泣かせていただきました。この小説が、命について深く考えるきっかけとなりました。最後に、本当に大好きです。ありがとうございました! (2020年9月7日 14時) (レス) id: b5b9338b39 (このIDを非表示/違反報告)
ふるる。(プロフ) - 初コメ失礼します、ふるる。です!すっごくこの小説好きでした!命って大切だなと思ったし新しい生き方も学びました。完結おめでとうございます! (2020年4月25日 10時) (レス) id: 28f80b2ad3 (このIDを非表示/違反報告)
岡部 愛(プロフ) - この作品であなたを知り、一気に最後まで読みました。しかし言葉が出てきません。とても好きで、好きだという気持ちをなんと表現したらいいか分かりません。この作品でたくさん泣きました。あなたの他の作品も是非読ませていただきます。 (2020年4月25日 8時) (レス) id: fa9bcb142e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:もちまる。 | 作成日時:2020年4月4日 9時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。