皇帝 ページ31
君と、生きることを約束した僕は
まず生きようと努力することから始めなければならなかった。
「…手術を受けます。」
少しばかり面倒で、厄介な壁だ。
だけど仕方がないだろう。
僕の頭の中にある腫瘍は
いずれこの命を蝕み、食らい尽くすだけだ。
君の分まで生き抜かなければならない僕は、こんな場所で止まっている暇はない。
だけどそう思って送られたアメリカの病院で
僕は早くも生への執着を失いかけていた。
不意に、帰ったら何をしようと考えた時
自分からは何も生まれてこなくて
僕は自分で思うよりも
何もかもが、空っぽになったことに気がついた。
アレスの力を借りたって、救いたいと思った人を救うことはできなかった。
僕はなぜ、何のために、何をするべく生きてきたのか。
今となっては、もう分からない。本当に分からない。
君の幸せのために、君を幸せにするべく生きてきたけれど
君がいなくては、僕は始まらないみたいだ。
そんな時、僕宛に一本の電話があった。
手術を終えて数日後のことだった。
知らない番号のその相手は、電話越しにこう言った。
「野坂悠馬。俺たちと一緒に、世界の頂上を見ないか。」
「…あなたは?」
「俺は」
彼は、中学サッカー界では誰もが知る有名選手だった。
「________鬼道だ。」
その瞬間、彼の言わんとしていることが全て分かった。
「…僕は行きません。サッカーはやめました。」
「流石、話が早いな。このままでは、アジア予選突破も危うい。お前の戦術力が今のジャパンには必要だ。」
「…天才ゲームメーカーと名高いあなたがいれば、それで充分でしょう。」
「その俺が、お前が要ると言っている。“消えた皇帝” として有名なお前がな。」
僕の情報がどこから出回ったのか知らないが
僕の知らないうちにそんな噂が囁かれていたらしい。
全くもって、馬鹿らしい。
「僕はやりません。」
「そうか。ならば仕方がない。精々、奴に奮闘してもらうことにしようか。_________西蔭、政也にな。」
「…西蔭?」
天才ゲームメーカーは、こんな僕ですら
その気にさせるのがうまいらしい。
「お待ちしていましたよ。野坂悠馬クン。」
「………。」
監督に手渡された真っ青なユニフォームに身を包んで
僕はフィールドをこの足で踏んだ。
ボールを蹴るのは確かに久しぶりだったが
不安には及ばなかった。
何故なら僕は
___________戦術の皇帝、野坂悠馬だからだ。
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カトラオ - はじめまして!!もちまるさんの小説に出会えて毎日仕事終わりに読むのが楽しみで仕方ありません。まだ全部読み切っては無いのですが、感動とドキドキの展開を毎日楽しみにしていることだけどうしても伝えたかったのでコメントを残します。 (2020年7月22日 21時) (レス) id: eccc16e070 (このIDを非表示/違反報告)
miginoaoi(プロフ) - 全部読みました。ボロ泣きしてしまいました…すごく切なくて感動する話ですね。続気が気になりました!今は無理でも貴方様の更新をずっとまちます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 5d51d334c7 (このIDを非表示/違反報告)
ハニートースト 通称,ハニトン!(プロフ) - 作者様の作品は全て読ませていただきましたが、完全に虜になりました。言葉選びが繊細で、儚くて、思わず世界に入り込んだ気分で読んでしまいます。こちらの小説なのですが、co shu nieというバンドのアマヤドリという曲がピッタリだったので、伝えてしまいました。 (2020年1月6日 19時) (レス) id: b6696be840 (このIDを非表示/違反報告)
聖羅(プロフ) - 初めまして。この小説を読んで泣きました。もちまる。さんの小説がとても大好きでずっと待ってました。これからもずっと応援してます! (2019年12月24日 23時) (レス) id: 07b14ef242 (このIDを非表示/違反報告)
ルナ☆(プロフ) - 初めまして。君の脳になりたいの方を読んで此方にきました。私、本や映画を見ても絶対泣かないのに、この小説と君の脳になりたいの小説では泣きました。私は今不登校で、死にたいって思ってたけど、これを見てまだ頑張ろって思えました。何年でも待ってます。頑張れ! (2019年11月28日 14時) (レス) id: 65ed62dd2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もちまる。 | 作成日時:2019年8月12日 21時