そして、君の幸せに生きた。4【野坂悠馬】

手紙 ページ28

一瞬、その封筒を開けることが怖くなったけれど


恐怖よりも内容見たさが勝ったのは言うまでもない。


僕は真っ白なその封筒に手を伸ばして
恐る恐る中の紙を取り出した。


“野坂くんへ“


それは少しクセの混ざった、綺麗な文字だった。


“今までありがとう。”


君はこれを書きながら、泣いていたのだろうか。


所々文字のインクが滲んでいた。


そんな滲みを見て


僕の目にもまた涙が滲んだ。


“私はずっと独りぼっちでした。”


“薄暗い病室の中でただ一人、自分の死を待っているだけの毎日を送っていました。”


________どういう、ことだ。


“そんな世界から飛び出して、私はあなたに会いに行きました。”


君は毎日学校に来ていたはずで
病室で日々を送っていたことなんか、なかっただろ。


君は一体、どこから来たんだ。


僕が見ていた君は、何だ。


“あなたを幸せにするためにここへ来ました。”


その答えは分からないまま
僕は手紙を読み進めた。


“あなたの笑った顔が、一度でもいいから見たくて来ました。”


そんな文を読んだ今


たった一つ、君のわがままをやり残してしまったことに気付いて


僕は思わず拳を握った。


君の前で「笑う」という行為を、僕はろくにできやしなかった。


不器用な僕にはそれが、難しすぎたんだ。


“たまに見える、ほんのわずかな微笑みに、私は幸せになりました。”


だけど君は
僕すら気づかないような僕の表情を、見つけてくれていたらしい。


そうだな、そうだよな。
君は宝探しが得意だったから。


日々の至るところに美しいものをみつけては
僕に教えてくれたから。


“次に会う時は、思い切り笑った顔を見せてね。”


次なんてないのに


君はまるで当たり前かのように未来の約束を取り付けた。


僕がしたプロポーズと、どこか似ていた。


“本当はサッカー、好きでしょ。私のために部活休んでくれてありがとう。これからまた頑張ってね。”


サッカーが好きというのは的外れだが
部活に行かなくなった理由を君に悟られていたと知って、思わず目を逸らしたくなった。


だけど僕は、この手紙をきちんと読み遂げなければいけない。


残りはたった数行だった。


だから少し、名残惜しいけれど


ちゃんと読むから。


君が僕に告げる最後の想いを、今読むから。

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