ごっこ ページ17
「わ…上がった!」
僕のただでさえ消えそうな掠れ声は
たった今地響きを起こしたこの音にかき消されたようだった。
「すごい!綺麗だね。」
「…うん。」
「あのね、野坂くん。」
耳元で君は言った。
「私も、野坂くんの知らない野坂くんを知っているんだよ。」
どういうことだろうか。
答えは分からなかった。
僕がその言葉の意味を理解するのは
もう少し、後の話だ。
「ねぇ野坂くん。」
君がいつもと何ら変わりない声音で僕の名前を呼んだのは、火花が闇に溶け散った夜から間もない日の朝だった。
「また、やりたいこと見っけちゃった!」
「うん。何?」
「あのね、結婚したい。」
大真面目にそう言った後、自らが放った言葉に君は腹を抱えて笑いだした。
何がそんなに可笑しいのか僕には分からないが、未だ14歳である君は法律という縛りがある以上結婚はできない。
君はとうとう、僕には到底叶えられない願い事を口走るようになってしまったらしい。
「でも、できないからさぁ。」
「うん。」
「結婚ごっこ、して!」
「…ごっこ?」
「そう!プロポーズして、ウェディングドレス着て、一緒に写真撮るんだよ。」
君はこんなにも小っ恥ずかしいことを、よくも教室のど真ん中で言えたものだな。
やっぱり君は、僕にとって到底理解の及ばない人間みたいだ。
「そういう類のことは、もっと然るべき人がしてくれるでしょ。」
恋だの、愛だの、ましてや結婚のことなど僕には全くもって言及することはできないが
人生で最愛の人を相手に選ぶということだけは、何となく理解している。
だから、たとえ君がもうすぐいなくなろうと
人の愛し方すらまともに分からない僕がそんなことをしてはいけない、と反射的に思った。
「ははっ、やっぱ嫌だよねぇ。ごめん。でも一生に一度はウェディングドレスが着たいの、コスプレってことでいいから!」
君の一生はまだまだ長いのだから、また今度にすればいいだろ。
“私が死ぬこと、知ってるんでしょ” などと厄介なことを君が言って来なければ、今頃僕はそう言っていたはずだ。
だけど先手を打たれていた。
君は時として、後々僕がハッとするような戦術を前もって使ってくる。
僕よりもよっぽどゲームメイクが上手いらしい。
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カトラオ - はじめまして!!もちまるさんの小説に出会えて毎日仕事終わりに読むのが楽しみで仕方ありません。まだ全部読み切っては無いのですが、感動とドキドキの展開を毎日楽しみにしていることだけどうしても伝えたかったのでコメントを残します。 (2020年7月22日 21時) (レス) id: eccc16e070 (このIDを非表示/違反報告)
miginoaoi(プロフ) - 全部読みました。ボロ泣きしてしまいました…すごく切なくて感動する話ですね。続気が気になりました!今は無理でも貴方様の更新をずっとまちます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 5d51d334c7 (このIDを非表示/違反報告)
ハニートースト 通称,ハニトン!(プロフ) - 作者様の作品は全て読ませていただきましたが、完全に虜になりました。言葉選びが繊細で、儚くて、思わず世界に入り込んだ気分で読んでしまいます。こちらの小説なのですが、co shu nieというバンドのアマヤドリという曲がピッタリだったので、伝えてしまいました。 (2020年1月6日 19時) (レス) id: b6696be840 (このIDを非表示/違反報告)
聖羅(プロフ) - 初めまして。この小説を読んで泣きました。もちまる。さんの小説がとても大好きでずっと待ってました。これからもずっと応援してます! (2019年12月24日 23時) (レス) id: 07b14ef242 (このIDを非表示/違反報告)
ルナ☆(プロフ) - 初めまして。君の脳になりたいの方を読んで此方にきました。私、本や映画を見ても絶対泣かないのに、この小説と君の脳になりたいの小説では泣きました。私は今不登校で、死にたいって思ってたけど、これを見てまだ頑張ろって思えました。何年でも待ってます。頑張れ! (2019年11月28日 14時) (レス) id: 65ed62dd2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もちまる。 | 作成日時:2019年8月12日 21時