そして、君の幸せに生きた。3【野坂悠馬】

好きな自分 ページ28

「んー…。」


「朝だよ。」


「もう…ちょっと。」


全く、呆れたものだ。
これで君を放っておいて、君が起きなかったら
それは本当の本当に、僕のせいになってしまうのだから。


しかし君の寝起きが悪いのは、僕にどうにかできる問題ではない。
とりあえずは放っておくとして、準備を済ませてしまおうか。


ベッドを降りて顔を洗い、諸々の支度を済ませた。


これだけ生活音が立っているというのに、君はまだベッドの上で寝たままビクともしない。


「っ……__________。」


突如として、頭が痛んだ。


もうこの痛みには大分慣れてきてしまったし
今更驚くこともない。


錠剤を一粒取り出して、乾いた喉に押し込んだ。


治療を受けろと、君は言ったな。


こんなことを言ったら色んな人に怒られてしまうだろうけど、最初は脳腫瘍という宣告が、僕は嬉しかった。


親に捨てられ、大人に利用され、任務を背負わされ、多方面から汚い期待を浴びせられ、こんなにも耐えに耐えて息を吸っている僕に
全てを投げ出せる理由ができたと思ったからだ。


病気だと言えば、全てから逃れることができる。
そんな思いが、僕の脳裏によぎっていた。


まぁ、事実がどうかは置いておくにしても
もうそんな不謹慎なことを考えるのは止めだ。


君が生きろと言うのなら、僕は生きる。


複雑な考えなんて、何もいらない。


僕は生きる。もう、決めたことだ。


「乃坂さん。起きなってば。」


「んんー…今、何時？」


「9時。」


「…へ？」


君を起こすには、結局これが一番だということを
そろそろ僕も学んだところだ。


「うっそでしょ…。」


随分と長い間閉じたままだったその瞼は、やっと上に持ち上がった。


「おはよ。」


「お…おはようじゃないよ！遅刻じゃん！！」


「あぁ、そうだね。」


慌てふためく君の姿が面白くて、思わずまた頬が緩みそうになった。

本当の時刻は、まだ7時半だ。
始業まであと1時間ある。


「何で起こしてくれなかったの…！」


「起こしたじゃないか。」


こんなくだらない朝に、僕は思う。


もしかしたら、この朝を“幸せ”と呼ぶのではないかと。


君の怒り顔に、そんなことを感じてしまうのだから


僕はやっぱり、不謹慎極まりない奴だな。


だけどそんな自分が


ここ最近じゃ、一番好きだ。

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