夢の後先 (ページ8)

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atosaki 8 ページ8

【you】

カオル「いやあ、あの時はマジびびったよなあ」

何杯目かの水割りが入ったグラスを軽く回しながら笑うカオル。口調が緩くなってきたから、そろそろ完成するな。

衝撃的な出逢いから1年近く。TVの国に住んでいたはずの中島健人は、すっかり下界に降りてきてしまったようで、週1で並んで授業を受ける仲になっていた。

マニアックかつ単位認定が鬼のように厳しいと評判の生命倫理学。尊厳死だのトリアージだの優生思想だの重いテーマを扱う授業だ。資格取得にも関係ない選択科目のひとつに過ぎないので、これを取るのは例年変人と呼ばれる人種が10名居るか居ないか。

そんな授業に何故かアイドルが現れた。

中島「あ、Aちゃんだ」

しかもしれっと隣に座り、この授業取るの？と訊いてくる怪し・・・じゃなくて中島健人。

「あの」
「ん？」
「私これでも女なんですけれど」
「知ってるよ、思ったより髪の毛短かったけれどね」
「あーあれは結び目にウィッグ、じゃなくて」

コイツ、やっぱり怪しいお兄さんだ。

「アイドルなんでしょ？」
「うん」
「女子とこんなところでしゃべってていいんですか？」

怪しいお兄さんがSexy Zoneで中島健人であると知った日。実はジャニヲタであるとカミングアウトしたナミさんから、いろいろな話を聴かされた。

ファンにとってアイドルとはどんな存在なのか。
そして中島健人がどれだけアイドルとしてプロであるべく努力しているのかということも。

だから、曲がりなりにも女である私と絡むのは違うんじゃない？と思ったし、何より学内に潜んでいるであろう「中島健人に逢いたくて入りました」に刺されたら困るし。

「私、席移動・・・」
「Aちゃん」

立ち上がった私の手を掴む中島健人。ますますオカシイ。オカシイけれど竹刀を持たない私はタダの雑魚キャラ。逃げることもできない。

「・・・はい」
「周り見てごらん？」

恐る恐る言われたとおりに辺りを見渡す。

「・・・なるほど」
「理解した？」

流石、変人しか集まらないと噂される伝説のコマ。教室に居るのはなかなかのオーラを放つ野郎どもが数名のみで。更に半数はアナタはいったい何年大学生してるんですか？と訊きたくなるような風貌の方々。

「多分ここに居る人は俺のこと知らないし、知ったとしてもそれをネタにする相手が居ないよ」

おい、後半だいぶ失礼だぞ、と心の中で突っ込んだ瞬間

「てな訳で1年間よろしくね」

・・・脳内にサイレンが鳴り響いた。