きゅうじゅうはち ページ6
no side
空が白み始めた頃
Aは織田の部屋で赤く腫れた目を開いた。
横では織田が寝息を立てている。
シワになった美飾服を見て
一瞬だけ焦ったAだが直ぐに真顔に戻る。
理由は『どうせリンタロウ医師のだから』。
Aは隣で眠る織田に布団を掛け直し
自分は静かにベッドから降りた。
洗面台の前に置かれた踏台にのぼり
鏡の中の自分と向き合った。
貴女『……酷い顔』
手を頬に添え呟く。
目は赤く腫れ上がり、目の下には隈。
涙の跡が残る頬に、掠れた口紅。
お世辞にも綺麗とは云えない顔だった。
貴女『もう、会えないのか………
でも……でも、作くんがいる、よね………』
自分に云い聞かせるように云うと
蛇口を捻り顔を勢いよく洗った。
貴女『大丈夫……大丈夫だよ私。
もう子どもじゃないんだから、大丈夫』
パシャン、と水が跳ねる。
貴女『…ふぅ……よし、』
Aはタオルで強めに顔を拭くと
結わえていた髪を下ろし軽く手で
そのまま美飾服を脱ぐと
織田の部屋に置いてある自分の服に着替えた。
貴女『今日は催しについての報告を書いて
その後は治くんと軽く手合わせ……
終わったら……殲滅作業、か』
やだなぁ、と気の抜けた声を上げると
ホルスターに納めてある拳銃を見て
身体に括り付けた。
レッグホルスターには
Aはそれを抜いて手の上でひと回転させる。
窓の隙間から差し込む朝日に反射し刃が光る。
貴女『生きる為、だよね』
光のない瞳でそう云うと
貴女『ごめんなさい作くん…
なるべく…殺 さないようにするから……』
握り拳に力がこもっていく。
貴女『作くんに、釣り合う様な人になるから…
どうか……私を嫌わないで………』
Aは居間に置いてあるメモ帳に
ペンを滑らせて織田へメッセージを残す。
貴女『…行ってきます』
玄関先で小さく呟き
扉を閉めて朝の横浜へと歩き出した。
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作者名:沙羅 | 作成日時:2019年5月13日 15時