ひゃくじゅういち ページ19
貴女side
貴女『……失礼しました』
バタン、と重たい音を立てて
執務室のフレンチ・ドアが閉まる。
私は、人を殺 さない。
作くんと約束したんだ。
云い聞かせるように繰り返しながら
昇降機に乗り込む。
扉が閉まったのを確認して
私は背後の硝子窓の向こうに視線を向ける。
貴女『……作くん、何だか嫌な予感がするよ。
人を……殺 さないと、いけないのかな』
そう呟いた時、
視線が一段と低くなった事に気が付く。
貴女『あ…はは、足に力が入らないや……』
竜頭抗争の恐怖と後悔が蘇る。
この手で、私は人を殺 した。
血の滴るナイフを握っていた。
貴女『ッ……』
思い出すのが怖くて強く目を瞑る。
それと同時に昇降機の扉が開く気配がした。
貴女『降りないと……』
慌てて立ち上がろうとするも
足腰は小さく震えて力が入らない。
無情にも扉は静かに閉まろうとしている。
貴女『まっ……』
ガッ、と誰かの手が扉を抑える。
そのおかげで扉は閉まるのをやめ再び開き始めた。
織田「A?」
ヒョイと顔を覗かせたのは作くんだった。
貴女『作くん〜!』
心からホッとして思わず両手を伸ばす。
作くんは一瞬きょとんとした後
微笑んで私を抱き上げてくれた。
織田「体調が悪かったのか?」
貴女『うぅん…大丈夫だよ、腰が抜けちゃって』
作くんはそうか、と呟くと
私を抱えたまま歩き始めた。
貴女『うぅ…二十四にもなって情けない……』
織田「俺はAを二十四でも抱っこ出来て嬉しいが」
貴女『うっ…私も…嬉しいけどさぁぁ…』
サラッと作くんは恥ずかしい事を云う。
何となく作くんの顔を直視出来なかった。
織田「A、」
貴女『うぅ…何…?』
名前を呼ばれて顔を上げる。
意外と作くんの顔が近くにあって
心臓が飛び出そうになった。
.
作くんは何も云わない。
私も何も云わなかった。
.
ただ、互いの目を見て
同じ碧い瞳を覗き込んだ。
.
どちらともなくゆっくり顔を寄せた。
.
.
それが初めての
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作者名:沙羅 | 作成日時:2019年5月13日 15時