アサゴハン ページ7
ゆらゆらと湯気を立てるミルクには、ほんの少し蜂蜜を。
黄金色のトーストには、カリカリに焼けた薄いベーコンと、半熟の目玉焼き。
そしてトマトとレタス、コーンの入ったサラダには、鮮やかなマヨネーズ。
デザートにはブルーベリージャム入りのヨーグルト。
豪勢な朝食が、食卓に並んでいた。
そしてAが席に着くと、子ども用のスプーンとフォークが置いてある。
疑問符を頭に浮かべて首をかしげたAに、「朝ごはんだよ、一緒に食べよう」と太宰は呼びかける。
「あさごはん……」
「そうだよ、朝に食べる食事のこと。ほら、朝日がまぶしいでしょ。朝がやって来たんだよ」
Aは太宰の指さす方を見た。薄手のカーテン越しに白い光が透けて見える。
「あれが朝日。朝の太陽」
「きれい……」
太宰が「いただきます、しようか」と言うまで、Aはうっとりと朝日を眺めていた。
「「いただきます」」
二人の声が、重なる。
まずはサラダから……と、こぼさないように注意して、太宰は食事の手伝いをする。
太宰は、Aが起きるのを、ずっと待っていたのだ。
一人ではまだ食べられないだろう、と考えた太宰は、先に自分の朝ごはんを食べておき、Aの食事の手伝いをしようと考えていた。
つまりそれは、他者の『生』を理解できなかった太宰が、他者の『生』のために能動的に動いたということだった。
なにもしらない小さな女の子は、全てを見通す少年に、確かに変化を与えたのだ。
それが良いのか悪いのかは、当人たちどころか世界の誰も、まだ知らない。
そんなことはどうでもいいとでも言いたげな顔で、太宰はAに朝ごはんを食べさせるという仕事を完遂したのだった。
そしてまた、どうにかこうにかAを昨日のドレスに着替えさせ、太宰は部下に連絡するために携帯を手に取った。
「あ、もしもし？こっちの準備終わったからマンションの前まで迎えに来てくれる？なるべく早くね。じゃ、よろしく」
何事かと、Aが太宰の顔を覗き込む。電話を切った太宰は、「お出かけの準備だよ」と言った。
お出かけ……外に出ること。どこに？
行くところなんて、ひとつしかない。
Aの中であの地下牢がフラッシュバックする。
「ひっ……、いや。いやです。ごめんなさい。ゆるしてください」
急に様子を変えたAに、太宰は落ち着いた様子で言う。
「大丈夫だよ。君が、これから生きていくために必要な買い物をするんだ」
終わり
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lokiloki - こちらの作品をとても気に入ったのでプレイリストに載せさせてもらいます ※自分の作品を消したい場合はお手数をかけますがプレイリストの 【おもしろ度を投票】の上にある 【リストから削除】からやるか、プレイリストのコメントから作者に言ってください (3月25日 1時) (
レス) id: 388da595fc (このIDを非表示/違反報告)
包帯無駄遣い装置 - 寝る前にこの話を見ながら妄想してたんですけど(やばっ鼻血出そう)と思って途中で妄想やめました(*´σｰ｀)面白かったです尊死するところでした😁 (2022年2月21日 22時) (レス) @page7 id: 6bd2bc248c (このIDを非表示/違反報告)
みみずみず(プロフ) - ベロロロさん» ご指摘有難うございます。『太宰、中也十五歳』の作中で言及していますが、15歳当時の太宰さんの一人称は『僕』ですし、森さんに対して敬語を使わない場面も見られます。ご指摘は貴重なのですが、ご自分で調べてからご指摘頂けると幸いです。 (2020年1月11日 8時) (レス) id: f644a1d514 (このIDを非表示/違反報告)
ベロロロ - 太宰さんは自分の呼び方『私』ですよ。それと森さんの前では敬語です。 (2020年1月8日 18時) (レス) id: 46f719295c (このIDを非表示/違反報告)
みみずみず(プロフ) - 怪盗MOONさん» コメントありがとうございます！主人公にはデレデレだけど黒の時代らしい苛烈さも持っている太宰さんを書けるよう努力しています！ (2019年12月30日 12時) (レス) id: f644a1d514 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みみずみず | 作成日時：2019年11月4日 20時
