No mouth to the dead～そして誰もいなくなる？ (ページ20)

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＿episode17 ページ20

＿side.羽井翼

シンクの上にあった肉は見ないようにして、ほかの食べ物を漁った。

ほどなくして兄さんの「おーい、カンヅメがあったぞ！」
という声が聞こえて、ひとまずご飯となった。

二人で「いただきます」と言ってカンヅメを開ける。

兄さんのは鯖缶、俺のはイワシ。

箸なんてもちろんないから手づかみで食べる。

かなり味は良かった。一応賞味期限を見てみたが、いまより100年後くらいになっていたのでそっと見なかったことにした。

翔「思ってたより、いいものが食べられたね」

と兄さんが言う。同意を返すと、兄さんはにこりと笑った。

只、その顔には右目が無く、何なら右腕もひじから先がない。
兄さんはいつも、多重人格である俺……俺たちのことを気遣ってくれる。

でも、兄さんも、兄さんの方こそ大変なのに。

いつも僕を優先して、自分のことは後回しなんだ。

普段ポーカーフェイスだけど、俺たちは兄さんがすごく優しいって知ってる。

今回このゲームに参加したのだって、俺たちが育った場所の仲間たちの為だ。

俺たちは幼いころに両親を亡くして孤児になった。
児童相談所にはいきたくなくて、そういう子供たちが集まる路地裏で暮らしてきた。
みんな一緒に育ってきた仲間たち。法に触れるようなこともしながら、泥臭く、苦しみも乗り越えてきた。

そんな仲間たちの中で俺たち……特に兄さんはリーダーだった。
皆も大好きで、頼りにされていた。

でも、皆の暮らしはそりゃあ酷いものだ。
お金があればきっとよくなる。だからこのゲームに二人で参加した。

『一人しか生き残れないよ！』

そんな忌々しい言葉が耳元にまとわりつく。
俺はその言葉を忘れるように首を振った。

1人しか生き残れないんだったら、俺のやることは決まってる。

何としてでも、兄さんを生き残らせる。

翔「翼？どうしたの、そんなにじろじろ見て」
翼「あ、ごめん。なんでもない」

俺に、いや俺たちに任せて、兄さん。

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