あなたが、【煉獄杏寿郎】

あなたと逃げ ページ38

『か、帰るね』

「あら〜折角かえってきたんだから昼食食べて行きなさい〜」

『ううん、いいの。ありがとう。杏寿郎くんもありがとう』


またね、と言って歩き出す。

母が沢山婚約者、お嫁さんとして、女としてと話すものだから気が滅入ってきた。


私、お嫁に行っちゃうのか。


一刻もはやくここから、
杏寿郎くんから離れたかった。

彼の顔を見るときっと泣いてしまうから。


小走りで角を曲がる。
私は力なく地面に座り込んだ。



実感はない。


顔も知らない誰かと結婚をするのだ。


今の時代では当たり前のことではないか。
そうだ、何を今更落ち込むんだ。

まるで自分の決めた人と結婚できると思っていたみたいじゃないか。


いや、おもっていた。


地面が歪み、ぽとりと地面を濡らす。


こんな事なら天元さんと結婚していた方が良かったかな、

なんて最低なことを考える。


昨日、彼に付けられた跡を手で抑える。
今日はおろしている髪がこれを隠してくれていた。

ぽろぽろと溢れる涙。



『なに、かんちが、いしてんだ、ろ』


心のどこかで期待している自分がいた。
この涙はそういうことだろう。


小走りで足音が近づいてくる。


誰かが近づいてくる。
まずい、どうしよう。


とりあえず立ち上がり、急いで小道に入る。


ふと昔のことを思い出す。


私が両親に叱られ、泣いている時もこの道をまっすぐ行って静かな竹林に縮こまって隠れた。


懐かしい。
あの時は杏寿郎くんがみつけてくれたんだっけ。


竹林に隠れる勇気はなく、角を曲がりほっといきを着く。
ゴシゴシと乱暴に涙をふき、空を見る。


なにをしているんだろう、私って。


馬鹿らしくなって少し笑う。

また地面に目線を落とし、目を瞑る。


泣いたって意味は無い。
変わらない現実なのだから。

しかしまたじわりと涙が滲む。


「やはりここにいたか！」


今1番顔を会わせたくない人の声だ。
もう、なんなんだ。全く。


「君は昔から変わらないな！」


なんで追いかけてくるんだ。
涙がこぼれそうになるのをこらえる。


「A、」


あなたは私の髪を撫でる。


『きょ、じゅろ、く』


優しすぎるんだよ。




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いつもありがとうございます。

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