記憶(R.Miyadate) (ページ9)

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9(R.side) ページ9

…

「父上、お話とはなんでしょうか？」

「涼太。縁談を断り続けているというのは本当か？」

また、その話か。
母上から言われたのだろう。

「私はAさん以外と夫婦になるつもりはありません。何度も母上にお伝えしております。」

「…行方知れずになってもう随分たつのだろう。」

「…はい。」

「佐々木殿の娘との縁談は、以前から出ている話だ。そろそろ考えてみてくれないか。」

佐々木殿は、母上の親類で。何かとお話を聞く方だ。親同士で決めているのかもしれないが、俺は首を縦に振ることができなかった。

「で、なんで息抜きが吉原なんですか。」

「たまにはぱーっと遊ぶんだよ、涼太。女を忘れるには女だ。」

「意味が分かりません。」

兄のいない俺にとって、実の兄のような存在の宗太郎さん。少々色を好むところ以外は気が合うのだが。

縁談のことを愚痴っていたら、飲みに行こうと誘われて。着いてきたらなぜかそこは吉原。話が飛びすぎだ。

「涼太は堅すぎるんだよ、もうちょっと柔軟に。」

「いや、それとこれは別の問題でしょう。」

夜だというのに明るくて賑やかで。
ここはまるで、別の世界だな。

格子の向こうの部屋から、遊女たちは通りを歩く男たちに声をかける。

「涼太、俺はあの女にするよ。この前からお気に入りなんだ。」

「は？宗太郎さん、そんなにここに通っているんですか？」

「ははっ、じゃあな。お前も適当に楽しんで帰れよ。」

驚く俺を置いてきぼりにして、宗太郎さんは中に入っていった。

さて。
もうどんなところかは見たし、そろそろ帰ろうか。
そう思ってぶらぶらと歩いていると、

「お兄さん、遊んでかない？」

見ると、声の主はまだあどけない女だった。

「行かないよ、」

と軽く返事をしたその時、俺の視界に信じられない光景が飛び込んできた。

部屋の奥。隅っこで壁に寄りかかるように座り、寂しそうな表情を浮かべる色っぽい女性。
化粧を施し、赤い紅も引いて大人びているが。

もうこの世にいないかもしれないとさえ思った愛しい人が、そこにいた。