シャングリラエッジ【ars J.M】

33.夢みたいなのに。 ページ33

そのままビルの駐車場に連れて行かれて、そこに停めてあった車の助手席に押し込まれるように乗らされた。
運転席に乗り込んだ潤さんに「シートベルト」と言われ、慌ててシートベルトを締める。


「あの...」

潤さんがナビに病院名を入力しながら、こっちをチラッと見た。

「...ごめんなさい...」
「何で謝るんだよ」
「迷惑を...掛けてます...」
「迷惑かどうかは俺が決める事」
「.....」
「みぞれは今、そんなコト考えんな」


クシャッと頭を雑に撫でられて、目の端に涙が浮かんだ。慌てて手の甲で拭う。

車の中は、いつも潤さんがつけてる香水が少しだけ香ってる。隣には運転する潤さん。
こんな状況、夢みたいだしめちゃめちゃ幸せなはずなのに。本当なら1秒でも長く続いて欲しいはずなのに。
今はお父さんの事が心配で、早く病院について欲しい。

病院までの数分、潤さんは何も喋らなかった。
「大丈夫だよ」とか、そーゆー気休めの言葉はひとつも無い。
でも逆にそれが、どんどん膨らんでいく嫌な予感や不安を抑えてくれる。


病院に着くと足がすくんでしまってる私の腰を潤さんが抱くようにして受付まで連れてってくれた。
こんな時なのにドキドキしてしまう自分が、卑しくて恥ずかしい。


「あの...あの...事故に遭って運ばれて来た朝霧の娘なんですが...」

受付で言うと「朝霧さんですね？そちらで少々お待ちください」と返され、待ち合いのソファに座る。
潤さんも一緒に隣に座ってくれた。

「あ...潤さん、私もう大丈夫なんで...会社に戻って貰っても...」
「俺が帰ったら、お前はどーやって帰んの」
「......」

ハァ...と潤さんが呆れた風に息を吐き出した時。


「あれ？A？」

ふらっと待ち合いスペースにやって来たのは、紛れもないお父さん。
「えっ！？」と、立ち上がる。

「お父さん、事故ったんじゃなかったの...？」
「あー！事故った事故った！」
「でも元気そうなんだけど...」
「元気じゃダメなのか？」

酷い娘だなー、なんて言ってるお父さんに私は上手く笑えない。何だこれ。

「後ろから追突されたから首をやったかもしれないなーって一応診て貰いに来たんだけど、異常無し」
「あ...そうなんだ...それは良かった...」
「ただ車が凹んだのがなぁ...早く直したいから、もう車屋に取りに来て貰ったよ」
「あー...車...車ね...」

力が抜けてヘナヘナとソファに腰を下ろすと、潤さんがクスっと笑った。

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