シャングリラエッジ【ars J.M】

38.メイクアップ。 ページ38

「隠し事、苦手なタイプだ」
「そんな事は...私、めちゃめちゃ嘘つくの上手ですから」
「それがもう既に下手な嘘なんだけど」

もう何を言っても無駄な気がする...。
私は黙って視線を下げた。


「そっかー、潤かー」
「.....」
「何であえて難しい所に行っちゃったのかな」
「.....」
「斗真なら簡単に落とせそうなのに」
「...そんな馬鹿な」

フフッと笑った旬さんが、まとまった髪に簪を刺した。
ハラハラと落ちてる後れ毛は私がやったら貧乏臭くなりそうなのに、自分で言うのも何だけど色っぽい気がする。


「うん、可愛い」
「.....」
「じゃ、メイクするね」
「...はい」

旬さんは何事も無かったかのように私の顔にメイクを始めた。
ベースメイクは、普段自分がしてる倍以上の時間をかけられる。少し肌荒れしてたのに陶器みたいになった、ビックリ。
アイシャドウは浴衣に合わせた淡い菫色。
目尻にポン、と紅色。
マスカラとチークは控え目。


「俺でも簡単に落ちそうだなぁ」
「...えっ！？」
「あ、喋らないで」
「.....」

透明感のある紅いリップを塗りながら旬さんが変な事を言うから、口元が何か落ち着かない。

「はい、完璧」
「...ありがとうございます」
「潤もドキドキしちゃうんじゃない？」
「.....ありえませんよ、私なんかそんな...」

鏡の中の私は、少し大人に見えた。
旬さんは「謙虚なのと自己否定は違うからね？」と、私の両肩に手を乗せる。

「俺がメイクしたんだよ？男心を揺さぶるメイクにしてんのに、ドキドキしなかったら潤は不感症だよ」
「ふかっ...！旬さん、言い方！」

私が笑うと、旬さんは「ちなみに」と私の耳に顔を寄せた。
めちゃめちゃ近い...！いい匂い...！


「今日は潤の誕生日」


クラクラしてる私の耳に流れ込んだ、新情報。
思わず旬さんを見る。すごい至近距離。

「...誕生日...？」
「だから元々、夕方以降は仕事入れないようにして飲みに行こうって話をしてたんだけどね」
「.....」
「さて、俺も着替えて来るからちょっと待ってて」


私を残して、旬さんは部屋の奥へと行ってしまった。

誕生日...そうなんだ...。
うわ、何もプレゼント用意してない...ってゆーかあんなオシャレな都会の大人男子が喜ぶプレゼントなんて用意出来る気がしない！



「ただいま」

扉が開いた気配と声に、立ち上がってしまった。
その拍子に膝の雑誌が落ちて、バサッと音がした。

驚いてる感じでも無い潤さんが、黙って私を見る。

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