シャングリラエッジ【ars J.M】

11.初潜入。 ページ11

「待って！」

と、慌てて発した声は無情にも届かず三人はタイミング良く来たエレベーターに乗り込んでしまった。
私の手には某通販会社の段ボール。大きさの割に軽い。

「...上まで持ってくか」


さっき彼らが乗って行ったエレベーターに、今度は私が乗って三階のボタンを押す。
そう言えば彼らのオフィスに行くのは初めてだ。
妙な緊張。でも緊張を解す間も無く、すぐに三階到着。

オフィスの扉横にある『澪-MIO-』と書いてあるプレートは、白地に文字もゴシック体で意外とシンプル。
モデル事務所にしては少々地味な気もする。

コンコンとノックして「すみませーん」と声を掛けると中から生田さんの「はーい！」って声がしたのに、扉を開けてくれたのは小栗さんだった。

「あれ？Aちゃん、どうしたの？」
「あ、これを預かってたのにさっき渡すの忘れちゃって...」

段ボールを差し出すと受け取って、何故か上下に振りながら「何これ」と呟く。

「なぁ、アマゾンで誰か何か頼んだ？」

小栗さんがオフィスの方を振り返って訊いてる。

「あ！俺の！」

奥から生田さんが走って来て、小栗さんから段ボールをふんだくるようにした。

「斗真、中身それ何？いかがわしい系？」
「やだなぁ、Aちゃんの前でやめてよー」

生田さんに「ねぇ」と言われて、アハーと笑うしか無い。
エレベーターの中で感じてた緊張は何だったんだろうって位、今の私、気が抜けてる。

「あ、Aちゃん。ちょっとお茶でも飲んでかない？」
「え？お茶ですか？」
「うん、美味しいさんぴん茶を手に入れたんだよ！」

私に話してる生田さんに「さっきコンビニで買ったヤツだろ」って小栗さんが笑った。
つられて笑ってしまう。
生田さんは「いらっしゃーい、どうぞどうぞー！」とオフィスの中に入って行った。
あまりのテンポ感に、どうしようか...と考えていると

「まぁ、せっかくだしどうぞ。顔は毎日合わせてるけど、ゆっくり話した事も無かったし」

小栗さんが声を掛けてくれる。


「良いんですか？」
「良くないなら最初から誘わないよ」
「...おー...カッコイイっすね」
「よく言われる」

ドヤ顔した小栗さんとアハハーと笑い合って、私は初めて澪のオフィスに入った。

そこは「まだ未完成なのかな？」と思う位に殺風景なのに、「これが完成形だ」という説得力もある空間。
使い込まれた感じの古い板が敷かれてる床を歩くと、キシッと小気味良い音がした。

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