心が弱い審神者と刀剣男士 肆 【刀剣乱舞】

百三十五振り ページ15

駆け出したは良いが、山姥切の居場所が分からない。
何処に居るの、山姥切。
いつもなら、山姥切の気を探せば分かる。
だが、今回はこの空間自体が山姥切の気に満ちていて、山姥切自身を探せない。
「くそっ…！！」
唇を噛み締める。足を動かすしか道が無い。
建物にでも登れれば良いのだが、生憎そんな身体能力は持ち合わせていない。自分の不甲斐なさを呪う。
何か、何か無いか。
山姥切の元にすぐに行ける方法。
夢の様な何か。
「……いや…待って」
歩みを止めた。
私は、此処が夢だと自覚している。つまるところ、これは『明晰夢』だ。
確か『明晰夢』の経験者は、夢を自由に変化させられた、と話していた。
ならば＿＿現状においても、それは可能の筈だ。
「…山姥切の元へ、私を連れて行け！！！」
瞬間、視界が歪んだ。そして、また同じ様な景色が視界に映った。
だが、分かった。移動したと。建ち並ぶ建物が、先程と違うと。
目の前には何も無い。
背後か。
急いで振り返る。
そこには＿＿山姥切と、『私』が見えた。
『私』が。
『私』が、居る。
地面に座り込んでいる。
あぁ、そうか。
まだ、事は起こっていないのか。
＿＿なんて、悠長にしていられない。すぐに時間遡行軍が来る。
山姥切が、怪我をしてしまう。
「山姥切！！」
駆け出しながら呼ぶが、山姥切は此方を見ない。
私に気付かないで、『私』を見ている。
声が届かなかったか。
「山姥切！！！！」
もっと大きな声で呼んだ。近付いてもいるのに、山姥切は私に気付かない。
何故。
可笑しい。
刀剣男士の身体能力は、人を遥かに越えている。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。その全てにおいてもそれは言える。
なのに、何故山姥切は、私を見ない。私に気付かない。何故、『私』を見続ける。
「A！！！」
山姥切が駆け出した。
時間遡行軍が、『私』を殺そうとしているのが見える。
行かないで。
山姥切が傷付いてしまう。
嫌だ、夢なのに、また、山姥切が傷付く様を見るだなんて。
走り出す。手を伸ばす。
届かない。届かない。
「私を…私を見ろ！！！山姥切！！！！」
山姥切が此方を振り向く。
だが＿＿時すでに遅し。後の祭り。後悔。
山姥切は、槍の攻撃をその身に受けた。
瞬間、
「ぁ、ぁああああああ！！！」
左側腹部に激痛を感じ、その場に崩れ落ちた。
痛い。
いたいいたいいたいいたいいたい。
痛いなんて言葉で言い表すには余りにも生温い痛みに、悲鳴を上げた。

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