キセキ (ページ19)

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No side

高地が出て行き、楽屋の中はAと京本だけになった。

「あの、さ、…」

京本が恐る恐る言葉を発する。

「結婚、しよう？」

それに対して、Aは何も答えない。

「A？」
「大我はさ、私に子供がいなかったらそんな事言わなかったよね。子供がいるから責任をとって結婚する。
そんな同情なら要らない」

Aは京本を突き放すように言った。
その瞳から読み取れる感情はない。

「違う、そんなんじゃない！」

京本は声を荒げる。

「何が違うの？」
「それは……」

Aの問いに対して京本は答えることが出来ない。

「私、シングルマザーでもやっていけるから」

Aがそう言って楽屋を出ていこうとするのを、京本は椅子から立ち上がって止めた。京本の右手はAの左手を、絶対に離さないとでも言うかのようにしっかりと掴んでいる。

「離して」
「嫌だ」
「何で……」

「俺は今でもAのことが好きだよ。
機会があるならやり直したいってずっと思ってた。
でも、それは逃げだったんだと思う。
俺はどこかでAと向き合うことから逃げてたんだよ。自分が傷付くのが怖いから。Aだってそう。しっかりと向き合わなかった。でも、俺はこれからはしっかりと向き合いたい」

「何が言いたいの？」
「俺はちゃんとAと、子供に向き合うってこと」
「今の大我に父親が出来るとは思えない」
「誰だって最初はそうでしょ？」
「そうだけど……」
「今日と明日、俺にチャンスをちょうだい。Aと子供と関わるから。それで俺に父親が出来るか判断してよ。
いいでしょ？」

Aは京本の言葉に、少し考える素振りを見せたが、最終的には頷いた。

「うちの子を泣かさないでよ」
「頑張ります」

京本はそう言ってAの腕を放した。

「あ、赤くなってる。ごめん、強く握り過ぎちゃった」
「……やっぱり無理じゃないかな……」
「そんな事、言わないでよ」

笑い合う2人は、何処からどう見てもお似合いだった。