眠れる姫と黒き誓い Ⅱ (ページ10)

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◼︎◼︎◼︎ ページ10

月も星も雲に覆われた夜
冷たい風が、黒々とした森の梢をざわめかせていた

深い森の奥――誰も近づかなくなった古びた城の廃墟
その地下、忘れ去られた石の回廊の先にある閉ざされた扉が、ギィ……と不気味な音を立ててゆっくりと開く

中に広がるのは、時の流れを拒んだかのような地下室
分厚い石の壁にはびこる苔、崩れかけた天井の隙間から、かすかな月光が差し込んでいた
しかしその光さえも、部屋の中に漂う“闇の気配”に押し負けて、震えていた

その中央――
魔法陣の中心に佇むのは、ひとりの男の影

黒いフードを深くかぶり、長いマントをまとったその男
彼こそが、かつて“闇の魔導士”と恐れられた存在だった

【……もうすぐだ】

しわがれた低い声が、冷気を伴って地下室に響く

彼は、指先でそっと古代の魔導書のページをめくる
乾いた紙が擦れる音すら、不気味な儀式の前触れのようだった

【姫の“再生”が……俺を呼び起こす。あの時、あと一歩で手に入れた“器”……ようやく、完全なものとして蘇るのだ】

男の手が空へと掲げられた瞬間、魔法陣が音もなく脈動し始める
濃密な闇が空間に満ち、部屋全体が震えた
石床の隙間から黒い靄が立ち昇り、男の身体へと絡みついていく

【失われた“力”よ……我が元に還れ――！】

叫びと共に呪文を唱えると、地下室全体が激しく揺れた
天井から砂が舞い、古代の魔力が解き放たれる
男の目が開く――その瞳には、かつて人の心を操り、国を滅ぼした者の狂気が宿っていた

【運命の糸は、再び繋がる……！】

目を閉じると、彼の意識の中に“あの少女”の姿が浮かぶ
かつて自分に抗い、命を懸けて封印された存在――“姫”

だが、時は巡った
封印は解かれつつある
“姫”が再びこの世界に目覚めたその瞬間から、魔導士の魂もまた目を覚まし始めていたのだ

【目を覚ませ、我が器よ。次こそは逃さぬ。お前の“魂”をもって、我は完全となる……！】

その囁きは、夜の森を伝い、どこか遠く――
封印されたまま静かに眠る姫の心にも、かすかに届いていた。
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こうして、運命は静かに、再び動き出した