眠れる姫と黒き誓い Ⅱ (ページ9)

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◼️. ページ9

展示室での奇跡の再会から数時間後――
夜の静けさが街を包み込む頃、自分の家でふたりで過ごした

テーブルに用意した温かい紅茶と、控えめな灯りだけが、ふたりの間を照らしている

ベッドの上に並んで座る俺と姫
眠りから目覚めてからまだ日が浅いはずなのに、姫の表情は不思議なほど穏やかだった

「……この世界、知らないものばかりなのに、不思議ね。怖くないの。きっと蓮が一緒だからね」

姫は、カップを両手で包みながらぽつりとつぶやいた

「それと……ここに来るまでの間に少しずつ、思い出してきてるの。あの城のこと、月の夜に交わした誓いのこと……」

ふっと視線を上げる姫と見つめ合う

「――それから、最後の夜のことも」

その言葉に堪らず

「……ごめん。あの時、守りきれなかった」

と謝るが、姫は首を横に振る

「違うの。蓮……あなたは、最後の最後まで私を守ってくれた。あの時の光景、ちゃんと覚えてる」

目を閉じる姫の瞼の奥に、遠い記憶の中の情景が浮かぶ

城を包む炎。闇の魔導師との戦い。
そして、自らを犠牲にしてまで「永遠の眠り」という道を選んだ姫と、涙をこらえながらその決断を受け止めた若き騎士の姿――

「あなたの手が、最後に私の頬に触れたとき……あの温もりが、ずっと心に残ってた」

姫の声は震えていた
けれど、それは悲しみではなかった

「何度も夢で見たの。あなたが、私のことを呼んでる夢。……それが、現実だったのね」

その言葉に、静かに微笑んだ

「僕も、同じ夢を見続けてたよ。ずっと、君に会いたくて……たまらなかった」

ふたりの視線が重なる
過去も現在も、すべてがその一瞬に繋がっていた

「蓮……ありがとう。目覚めさせてくれて」

「こっちこそ、ありがとう。戻ってきてくれて」

姫の手をそっと取り、自分の胸元へと添える

「これからは、もう離さない。前世で果たせなかった分まで、今度こそ守るから」

その言葉に、姫はそっと目を閉じ、微笑む

「……ええ。私も、あなたのそばにいたい。今度は、最後まで」

夜は静かに更けていく
けれどふたりの心には、確かに新しい朝の予感が灯っていた