眠れる姫と黒き誓い Ⅱ (ページ8)

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⬜︎. ページ8

まだ完全には力が入らない足元
ふらりと揺れた体を、蓮がすぐに抱きとめてくれた

「……大丈夫？」

優しい声が耳元に届く
胸の奥深く、記憶の底から懐かしさがこみ上げる

「あなたの……声……」

彼の胸元にそっと額を寄せる
そして、蓮もゆっくりと私の背に腕を回し、深く、静かに抱きしめてくれた

言葉はいらなかった
再会の歓びと、永遠に失われたと思っていた時間が、今ここに戻ってきた奇跡
それを確かめるように、ただ、ぴたりと寄り添っていた

ふたりを包む空気は、外の世界とは切り離された特別なもので、展示室の空気さえも澄んで見える

――と、その様子を、展示室の入口の陰からそっと見守っていた老館長の目が潤んだ

彼は、展示品としての姫を守り続けてきたひとりの管理者でありながら、
どこかでこの伝説が本物であればと、長年ひそかに願い続けていた人物だった

「……こんな日が来るなんて……」

老館長は、震える手で眼鏡を外し、ゆっくりとポケットのハンカチを取り出して目元をぬぐった

静かに息を吐き、もう一度ふたりに目をやる

あまりにも幻想的な光景だった
まるで時の流れが止まり、神話の一節が目の前で紡がれているかのような

――そして、彼は悟った

この奇跡は、自分が関わるべきではない
ふたりだけの再会の時間を、邪魔してはならないと

館長は、ふたりに気づかれぬように一歩、また一歩と後ろへ下がる
静かに、足音も立てずに扉へと向かうと、そのまま展示室の重い扉を閉める

「ようこそ、現代へ……おかえりなさい、姫と騎士よ」

老館長は、優しい微笑を浮かべながらその場を離れていった

展示室には、再び静寂が戻る
けれど、それは“孤独な沈黙”ではなかった

ふたりの再会が紡ぎ出す“希望”と“奇跡”の静けさだった

蓮の腕の中で、そっと顔を上げ、彼を見つめる
その瞳には、懐かしさとともに、新しい光が宿っていた

そして、ふたりの時間が、今ふたたび動き始める――