77.Ren ページ27
夜のオフィスは、まるで深海のように静まり返っていた。
俺はひとり、フロア奥の会議室にこもって資料整理をしていた。
週明けのプレゼン用のデータを見直しながら、ふと時間を確認する。
──20時過ぎ。
時計を見ても疲労感は薄い。
この仕事が終われば、あとは帰ってシャワーを浴びて、
モコが出迎えてくれる玄関へと戻るだけ──そう思っていた、その時。
「……蓮」
聞き慣れた低く澄んだ声。
振り向かずとも分かる。
「……桐沢」
「まだ残ってたんだね。部屋、明かりついてたから」
ヒールの音も、まるでこの空間を邪魔しないように軽やかだった。
「邪魔、だったかな？」
「いや、別に。終わりかけだった」
彼女は空いていた椅子に腰掛けると、まっすぐ目を向けてきた。
「今、時間ある？」
「……少しなら」
そう言うと彼女は少しだけ笑った。
まるで“昔の頃”に戻ったような、自然な表情だった。
「うち……結婚、うまくいってないの」
「……」
「最初は、やっぱり“分かり合える人”だと思ったんだけど。
何年も一緒にいたら、分かり合えるだけじゃ足りないことってあるのね」
「……そうか」
返事は淡々としていた。
「蓮はさ、昔から変わらないね。
人に何かを求めない。期待しない。自分で全部処理しちゃう」
「そういう性格だからな」
「でも、だからこそ……放っておけなかったんだよ。
昔も今も」
「……何が言いたい」
「まだ、好きなの。蓮のこと」
沈黙が落ちる。
書類をめくる手が止まり、
呼吸だけが互いの距離をはかる。
「桐沢──」
「聞いて。……あの子、ぽめちゃんって呼ばれてるんでしょ？」
「……」
「あなたのこと、本当に好きみたいね。
でも、子犬みたいに懐いてるだけじゃ、あなたは振り向かない。そういう人でしょ。昔から」
声は柔らかい。
けれど、芯にあるのは確かな“試すような強さ”だった。
「私なら分かる。あなたの間合いも、言葉の少なさも。
沈黙が答えになる場面だって、何度もあったから」
「……」
「あなたが手を伸ばさないとき、私が先に伸ばした。
あの子には、それができる？」
「……佐倉は──」
言いかけたそのとき、
ふいに、彼女の手が伸びてきた。
そして、躊躇なく抱きしめられた。
彼女の髪の香りと、かすかな香水の匂いが鼻をかすめる。
「お願い。ほんの少しでいいから、このままでいさせて」
その言葉と重なって──
「パタン」と音がした。
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みぃぷ(プロフ) - みなさん» みなさん、変換間違いでした(｡-_-｡)教えていただいて、ありがとうございました！ (9月9日 23時) (
レス) id: 2ace0e9189 (このIDを非表示/違反報告)
みな(プロフ) - いつも楽しく読まさせて頂いてます！ 佐野勇斗くんの漢字が間違っているのは、わざと字を変えているのでしょうか？そこだけが読んでて気になってしまいました。 (9月9日 21時) (レス) @page36 id: 499ba0d511 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みぃぷ
| 作成日時：2025年9月4日 20時
