30話「壁」 ページ32
『おはよー』
『はよーっす』
あれから、ふたりとは話せていない。
正確には、「あのこと」について話せていないだけだけれど。
いつも通りに3人そろって登校し、普通にしゃべっている私達は、きっと他から見れば普段と何ら変わりはないんだろう。
けれど、確かに分かることがある。私達の間の空気が、そびえ立つ見えない壁が、何かが変わったことを示している。
それなのに話を切り出すことなんて、到底出来ない。
それに、意を決して切り出したところで、避けられてしまう。
「ねえ、水城。話したいことが──・・・」
水 「あっごめん、今日、その、歯医者があって、先行くわ!」
「水城!!」
走り去る後ろ姿を見送る度、罪悪感が押し寄せる。
どうにかしたい、しなくちゃいけないのに・・・どうにも、できない。
今日も水城と話すことに失敗した私は、自動販売機の前にしゃがみ込む。
あの日から、結局何も進んでいないのに、気まずさだけが降り積もって増えていく。
このまま、話し合えないまま卒業してしまったら・・・
唯 「A」
頭を抱えていると、背後から穏やかな声がかかった。
振り向かなくたって分かる。唯人だ。
「・・・ごめん、今は、」
唯 「これで最後にするから」
遮るようにかぶせられた言葉に、思わず押し黙る。
唯 「・・・最後に、話したい」
「話したい」。私が水城に思っていたことだから、だろうか。
うなずいて、しまったのは。
++++
連れていかれたのは、使われていない準備室だった。
数学の準備室とは名ばかりで、古びた椅子や机の他には何も置かれていない。
ほこりの臭いと、木の香りが混ざった匂いが充満していた。
キシ、と木が軋む音で顔を上げる。
唯人が、机に片手を置いてこちらを見ていた。
唯 「・・・諦め、悪いよね。ごめん」
「・・・」
どこまでも優しい声で言う唯人に、けれど私は何も返してあげることができない。
唯 「・・・ほんとに、ごめん、A。でも、もう一度だけ、きいてほしいんだ」
風が揺れて、唯人の髪が切なげに揺れる。
唯 「・・・好きだよ」
・・・ああ、耐えがたい痛みだ。
胸が苦しくて、このまま心臓をつかみ出したくなる。
「・・・ごめん。唯人とは、・・・ごめん」
つきあえない、が言えなくて、ごめんしか出てこない。
情けない。心の中で、そう言い捨てた。
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あかり(プロフ) - ISLAYさん» ありがとうございます!!そうなんですよー!主人公よりかわいくあれ!と思って書いております←(^^ゞ (2018年11月26日 18時) (レス) id: 8b1d55c97a (このIDを非表示/違反報告)
ISLAY - 諏訪くんって、可愛いですよね。 (2018年11月26日 9時) (レス) id: a0fdea4e50 (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - まひろさん» ありがとうございます^^イラスト集が完結した分、こちらの更新が亀にならないよう気をつけていく所存です!← (2018年11月24日 14時) (レス) id: 8b1d55c97a (このIDを非表示/違反報告)
まひろ - とっても面白いです!!イラストが完結してしまったのは寂しいですが、小説も応援しております!!∩^ω^∩ (2018年11月24日 10時) (レス) id: 117c5ce46f (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - かぐやさん» ありがとうございます!!諏訪くん私も好きなんですよ~。ちょっと、いやかなり私の好みが組み込まれてます笑 (2018年10月28日 21時) (レス) id: 8b1d55c97a (このIDを非表示/違反報告)
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