29話「落とし物」 ページ31
「水城、どうして・・・」
そう私が呟いたきり、また静寂が訪れる。
それは決して心地好いものではなかった。息苦しくて、窮屈な静けさ。
最初に口を開いたのは、水城だった。ただし、震えて、
水 「ごめ・・・遅いから心配になってさ、でも、じゃ、邪魔して・・・っ」
・・・笑って。
「っ水城、違う、これはっ・・・」
水 「も、戻るね!授業始まるし、ふたりも・・・っ。」
言い終えた途端、涙をあふれさせた彼女の顔は、今も脳裏に焼き付いたままだ。
そして、きびすを返して去っていく後ろ姿も。
残された私と唯人の間を漂うのは、気まずさだけだった。
「・・・唯人、ごめん・・・」
本当は水城を追いかけたかった。けど、彼女を引き止めたところで、言えることは何もない。
だから、唯人の前にとどまった。
そんな自分が、ずるくて、卑怯で、嫌になる。
「・・・帰るね。水城には、言わないで。私が説明するから」
唯 「なんで、水城に・・・」
「いいから!!」
大声を出したのは、いつ以来だったか。
びくっと肩を揺らした唯人はそっと、「・・・分かったよ」と言った。
ちらりと見えた唯人の表情は、こっちの胸が痛くなるくらい苦しい顔をしていて、涙に濡れた水城と重なってさらに辛くなる。
それは長く見ていられるものではなかったから、中庭から逃げるように去った。
絶望感が心を占めて、息苦しくなる。
どうして、どうして、どうして。
水城を裏切って、唯人を傷つけた私が、どうして苦しくなってるんだろう?
辛いのは私じゃないのに、どうして。
「・・・っ馬鹿みたい・・・」
廊下のごみ箱を蹴り倒して、その場にうずくまる。
汚れた床に、染みが出来ていく。
"泣く資格、あるの?"
"何も気づいてなかったくせに"
"気づこうとしてなかったでしょ?"
頭の中で反響する声。それは"わたし"の声。
自分を責める自分の声。
「っ・・・な、んでこんな・・・!」
間違えてしまった道を、戻ることは出来ない。
自分で新しい道を作る力も、まだない。
どうせなら、地面に穴を開けて地下に道を作れたらいいのに・・・
自分でなくしてしまったスコップは、どこにあるのか分からない。
濡れた地面を指でそっとなぞる。
一体、私達はどこでスコップを落としたんだろう。
───・・・素手で道を作るなんて、出来やしないのに。
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あかり(プロフ) - ISLAYさん» ありがとうございます!!そうなんですよー!主人公よりかわいくあれ!と思って書いております←(^^ゞ (2018年11月26日 18時) (レス) id: 8b1d55c97a (このIDを非表示/違反報告)
ISLAY - 諏訪くんって、可愛いですよね。 (2018年11月26日 9時) (レス) id: a0fdea4e50 (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - まひろさん» ありがとうございます^^イラスト集が完結した分、こちらの更新が亀にならないよう気をつけていく所存です!← (2018年11月24日 14時) (レス) id: 8b1d55c97a (このIDを非表示/違反報告)
まひろ - とっても面白いです!!イラストが完結してしまったのは寂しいですが、小説も応援しております!!∩^ω^∩ (2018年11月24日 10時) (レス) id: 117c5ce46f (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - かぐやさん» ありがとうございます!!諏訪くん私も好きなんですよ~。ちょっと、いやかなり私の好みが組み込まれてます笑 (2018年10月28日 21時) (レス) id: 8b1d55c97a (このIDを非表示/違反報告)
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