【文スト×東方】第三篇 この余白はそれを書くには狭すぎる。

87. ページ10

.





「どうやら、私のお知り合いは貴方がたが嫌みたいでね、なんとしてでもヨコハマに手を出してほしくないそうよ。
私は天人五衰に向けた見せしめのパフォーマンスの為だけに、この子の力を借りたのだから」





そういうなり彼女はポケットから植物の種を取り出した。

彼女がふっと息を吹きかけてやれば、その種はみるみる根を生やしぐんぐん成長していく。

そのまま彼女らの身長をゆうに超えるほどまでに茂った種に彼は驚愕を禁じ得なかった。

先ほどまで炎天直下だった太陽がその種──すでに木であるが──の木漏れ日によって薄まる。



「私はとある借りを作られてねえ、それを返す名目で久しぶりに外の世界に顔を出したのよ。
ずいぶん変わったのね、この世は」



どこか遠い目をした彼女に、忘れられていた記憶がシグマの中で雷鳴の如く瞬いた。



「ッ、幻想郷───！！」



咄嗟に呟いたその単語に、幽香が目に翳りを差す。



「あら、ご存知でしたの。
天人五衰は情報網もしっかりしていること」



「──ポートマフィアを襲い、増田すみかの死を隠蔽して居るという秘密組織──ッ」



理性より前に口が先走る。

全ていい終わった後に、シグマは己の失言を悟った。





「あら、ずいぶん語弊だらけのデマニュースね。
どこぞの真実を書くとかいう天狗さんを見習ってほしいぐらいだわ」





恐ろしいほど冷えた声だった。

別に特段低かったわけでもない。
この場所が寒いわけでもない。

ただ、彼女の口唇から紡がれた言の葉と流れ出た苛の音が、ここの温度を五度下げた。



「増田すみかは死んで無い。今も生きてるわ。紫が少し入れ込んでる──否、道具として使って居るだけ」



「道具？」



シグマの口からまた言葉がまろび出る。
彼の額に冷や汗が滴った。



───私はこんなこと言うつもりがないのに！



脳内で不意に思ったことが、全部唇から溢れ出していく。

まるで、無意識(・・・)の力に囚われて居るとでもいうように。

幽香の背後のガレキの影で、少女の小さな嗤い声が聞こえた。



「あら、少し喋りすぎてしまったみたいね？
貴方と話すことはもうないわ。
あともう一週間ほど寝てなさい」



そう言い、幽香は閉じた傘の先でシグマの眉間を叩いた。

瞬間、彼の目から光が消える。
そのまま彼の意識が静かに暗転(ブラックアウト)した。

88.→←86.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す