【文スト×東方】第二篇この余白はそれを書くには狭すぎる。 (ページ5)

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摩多羅隠岐奈による交渉(おどし)から数日後。

天気予報が晴れのち雨を告げる中、空にはまだ青空が広がっていた。

そんな中、晴天の霹靂よろしく、空に車一つ入るような裂け目が現れる。

そして、その裂け目から二つの少女ほどの影が飛び出したのだ。

「新鮮な空気は久方ぶりだぜ!」

そう空に向かって高らかに声を切り裂いたのは、
腰ほどもある黒いポニーテールを揺らし、カウガールの衣装を見にまとう少女、驪駒(くろこま)早鬼(さき)である。

空を飛んでいるという時点で人間離れしているのは明確だが、彼女は能力だけでなく、体全体が彼女が異形であるということを物語っていた。

艶の良い黒いふさふさとした馬の尾。
そして何より、背中に生えた大きな黒き翼。

その翼は、片翼だけでも小柄な彼女を包み込めるほどのサイズがあった。

彼女のことを、世間一般はこう呼ぶ。

聖徳太子の、空を飛べる馬『甲斐の黒駒』と。

かの有名な聖徳太子の愛馬で、空を飛べると噂されていた馬である。

つまり、彼女はただの馬ではない。俗にいうペガサスというものであった。

しかも、彼女は既にこの世なき者。
所謂亡者(馬)であった。

「おい驪駒、大声を出すと勘付かれます」

その隣で、どうどうと馬をあやす少女がいた。
金髪のボブヘアに、鮮血を流し込んだかのような知的に光る赤い瞳。
そして、背中にあるのは龍の皮で覆われた亀の甲羅。
甲羅から流れるようにしなうのは龍の尾だ。

彼女こそ、龍の堕とした片割れ、
吉弔(きっちょう)八千慧(やちえ)である。
そして彼女もまた、彼岸を寝床とする幽霊だ。

「まぁいいじゃないか吉弔！
それに、せっかくの顕界なんだ！楽しまないわけにゃいかないだろ？
せっかくこれから血溜まりしか見ないんだから」

そう言って早鬼(驪駒)は西部劇に出て来るような鍔の広い帽子を手で押さえる。

「…………そうですね。驪駒(バカ)の言う通りです」

八千慧(吉弔)は呆れた眼差しで息を吐くように罵倒した。

「あん？今バカっつったよな！？
おい、私はバカじゃねぇ！馬だけに！
あっでもそうなると私が馬鹿ってことに……
いや、でも違うんだ！」

八千慧から見れば、ぎゃあぎゃあと弁明の余地もない言い訳を喚き散らすじゃじゃ馬だ。
ミクロも感じられない興味を傍に追いやり、彼女は遥か地上に見えてきたそれに目を凝らす。