微睡み (ページ8)

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黒 side

何故だか彼とキャンパスのベンチに2人並んで、お茶をしている。

大学に入ってから、誰かと時間を共にするのなんてはじめての経験だ。

彼が座る左隣がむず痒い。

「この学校に自販機、売ってる飲み物も並びも全部同じって聞いて。この前全部教えてもらったのを覚えたんです。」

「でもやっぱり、都会は難しいですね。地元だと、俺が見えないのを街の皆んなが大抵知ってて何もしなくても助けてもらえたから。」

『なんで、こっちに出てきたんですか。』

彼の前だとするすると言葉が出てくる。魔法にかけられたみたいに。

「助けられてばかりの自分から脱却したくて。家族の反対押し切ってでてきちゃいました。まだ今日みたいに上手くいかないことの方が多いんですけどね。」

彼は缶に入った甘いカフェオレを啜る。

俺とは正反対の上京動機。彼は、見えないけれどそんな自分を誰よりも自分で分かって受け入れている。

俺は五体満足で生まれてきたというのに、自ら声を葬り去り、家から逃げるようにここにきた。

うちは荒んでいて、シングルマザーの親は酒に溺れていた。

彼女の機嫌を損なわぬようにするのが俺が生き残る上で大切だった。

だから、痛いとか辛いとか苦しいとか。

無駄なことを口にしないようになるべく言葉は飲み込んで飲み込んで飲み込んで。

声を出せないことを理由に学校からも唯一仲良くしてくれていた親友からも逃げて。

自暴自棄になってここにきた俺と、隣でカフェオレを啜る彼。全然違う。

俺が並んで座って良い人ではない。

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