好きと気付いたバレー馬鹿【木兎光太郎】 (ページ35)

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35、合宿①⑨ ページ35

その後もギクシャクは続き、ただいま女バレ対烏野の試合が始まろうとしていた。
1セットだけだが、ペナルティはフライングコート2周。

「A、Sの影山とMBの日向には気を付けなさい」

「確か特殊な速攻だっけ？」

「ええ。変人速攻よ」

岬が変人コンビを見ながら呟くと、Aはニタリと笑った。

「カッコいい名前付いてんじゃんか」

ここまで女バレは音駒に勝利、しょぼくれモード中の梟谷にも勝利している。つまりこの試合にリーチが掛かっている。

「またあいつの顔見ないとじゃん……！」

「あいつってどっちの事言ってんの？」

「チビの方だよ！私より遥かにチビの方！」

日和も変人コンビを見ていたらしく、イラつかせた表情でぶつぶつと文句を言う。
それに気付いた伊織が声を掛けるも、面倒だと思ったのか、これ以上は何も言わなかった。

「あいつ！あいつまた俺の事チビって言った！！」

「あいつって誰の事だよ」

「こっち見てる奴だよ！」

「こっち見てる奴って……」

その視線に気付いたのか、日向も睨み返す。

「A岬さんとAAさんじゃねーか！！日向ボケ！昨日も言っただろーがよ！」

慌てて日向は日和を指挿して叫ぶ。

「違う！あいつ！日和の事！」

「あぁ日和か。あいつには世話になった」

「え、影山、あいつと知り合いなのか？！」

「知り合いではねぇ。ぐんぐんヨーグルトを買う金がなくて、奢って貰った」

「……いい奴だ」

少しばかり日和を見直した日向だったが、まだこれだけでは足りぬのだろう。
取り敢えず睨むのを止めておいたようだ。

「……あいつ、睨むの止めたみたい」

「元々詩乃が睨み始めたんでしょ。日向は悪い事してない」

「悪いに決まってる！」

「悪くない」

イトコにここまで言われてしまえば、流石の日和も口籠る。

「……じゃあ蘭はあいつに何か良い事してもらった事あるの？」

「フルーツオレ買うお金なくて奢って貰った」

「……いい奴じゃん」

日和は日向からぷいと視線を逸らすと、スポドリを口に含んだ。

「そろそろ始めるぞー」

主審の黒尾の声が、第一コートに響き渡った。