【平/和/組】君は愛しいモノノ怪【実.況】

第伍章　鷺は愛を知る-01- ページ39

俺は昔から大人の考えが読めた。

そして、大人はいつも言ってることと思ってることが違うなあと不思議に思っていた。







…俺のモノノ怪が嘘を吐いた人の考えが読めるという能力だということに、気づいたのは少し経ってからだ。



*第伍章 鷺は愛を知る*


にゃあ、と猫が一つ鳴いて、眠りの浅い俺は目を覚ました。時計を見れば普段だったら顔面蒼白になってしまうような、遅すぎる目覚めだった。



「おはよ、部長」

「なあん」

俺が社会人になってすぐ飼い始めた猫は、喉元にネクタイのような模様がある三毛だったので皆から「部長」と呼ばれていた。

部長はカリカリとベッドを引っ掻いて催促するように喉を鳴らす。どうやらご飯の用意を急かされているようだ。



Aちゃんが数珠が出来るまでの一週間外出ができなくなって、俺たち四人もそれに付き合うことになって、4日が経った。
最初は申し訳ないからと断っていたAちゃんも、流石に4日も経てば何も言わない。

むしろこちらとしては溜まりに溜まりきっていた有休を使えるいい機会なのだが、どうも彼女は自責的過ぎる。

…まあ、彼女の家庭環境を垣間見た以上、それについては仕方ないと思ってしまうけれど。





部長を抱えてリビングに出れば、Aちゃんは洗濯物を干していた。俺に気付くと少し口角をあげてこちらに近づいてくる。


『おはようございます、ご飯食べますか』

「おはよう、いつもありがとうな」

ただお礼を言っただけなのに、Aちゃんは嬉しそうに笑った。
分担して朝ごはんを準備しテーブルにつく。きっかり2人+1匹分のご飯だ。


「朝、まだやったの」

『はい、一緒に食べたかったので』

Aちゃんの素直な言葉に今度は俺が笑った。



こうやって人と朝ごはんを共にするのはどれくらいぶりだろう。4人で住んでいた時も朝は出る時間が合わずに各自で用意していたものだから、多分20年近くは一緒に食べていないのかもしれない。





…俺の両親は、よく嘘を吐く人だった。

最近仕事が忙しいから、新しいプロジェクトが、後輩が世話の焼けるやつで。

そう言って二人とも、俺が小さいころから家にはあまり帰ってこなかった。

傍目から見ても父親と母親はうまくいってなかったし、きっとその原因は俺だった。

俺が人の考えがわかるってことに気が付いてから、両親は俺に近づかなくなったのだ。…本当は、そんな能力ではなかったけれど。

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