のんきな猫と死にたがり 3 (ページ38)

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『気が付いたら、事故から一週間経っていた。何があったかまるで思い出せなかった。
　だけどね…
　俺の脳みそはよくやったよ。記憶が戻るか半々ってところで、踏みとどまった。おかげであの日を思い出せた。

　二度と笑わない、麗子。』

事故当時の記憶は一度はなくなっていたらしい。
でも、思い出してしまった。嫌なほど鮮明に蘇ってしまった。

『どうして、警察に連絡しなかったの……？』

『轢いた証拠はあっても目撃者はいない。過失致死になるだけだ。

　だがあれは殺人だ。

　罪を犯す者をどうしたら救えるのか、そう話していた妻は殺された。
　救いがあるかとこの本を開いた。迫害されたキリシタンは指を三本切り落とされた。昔見た遺体と同じだ、荷札にはケモノという字。被害者は獣に見立てて殺された。
　どうしてそんなことをするのか……

　犯人は捕まらなかったが、今になってその気持ちがわかる。処刑人にも良心の呵責がある。

　堀内は許してくれと何度も叫んだ。
　俺は何度も答えた。

　“許さない。許さない。俺は許さない。
　刑事だった自分を捨てても、俺は許さない”』

『俺は、ガマさんがいたから刑事になった。
　ガマさんみたいな刑事になりたかった。いや、なるんだよ…！
　定年まで勤め上げてさ、俺みたいな奴らを真っ直ぐな道に戻してやり直して。誰でもやり直せるってガマさんが教えてくれたじゃん俺に！！

　俺はどこで止められた！？いつならガマさん止められた！？どうすれば良かった！！？
　ねぇ！！ガマさん！！』

『……志摩くん。Aさん。
　他の刑事さんも、いますね、聴いてますね。逃げも隠れもしない。堀内を殺したのは俺だ。
　これは自首ではない。逮捕しろ。』
『ねぇ！』
『早いとこ死刑にしてくれ。』
『ねぇガマさん！！』
『俺のような人間を収監して、いつまでも飯を食わせるなんて税金の無駄だ…！』

刈谷さんの落ち着いた『突入。』という声が、ズシっと重く圧し掛かった。

そして、鼻をすすって嗚咽を漏らす伊吹さんの泣き声だけが、部屋に取り残された。

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