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志摩さんは、机の上に転がっていたパチンコ玉のような小さな鉄球を1つ手に取った。
「ループゴールドバーグマシーンって知ってる？
ピタゴラ装置とも言う。」
「連鎖的に運動する仕組みのことですか？」
「うん。辿る道はまっすぐじゃない。障害物があったり、それを上手く避けたと思ったら押されて違う道に入ったり……
そうこうするうちに罪を犯してしまう。何かのスイッチで道を間違える。」
話しながら、御盆に乗せられたグラスやら色鉛筆やら…
いろんな道具を使って組み立てていく。
「でも、それは自己責任です。」
「出た！自己責任。」
「最後は、自分の意志だ。」
「その通り。
自分の道は自分で決めるべきだ、俺もそう思う。
だけど、人によって障害物の数は違う。正しい道に戻れる人もいれば、取り返しがつかなくる人もいる。誰と出会うか、出会わないか。
この人の行く先を変えるスイッチは何か。
その時が来るまで誰にも分からない。」
そう言って志摩さんは組み立て終わったピタゴラ装置に鉄球を置いた。
さっきの話の通り、様々な障害物に邪魔されながらも鉄球はコロコロと道を辿って行く。
そして最後は寝ている伊吹さんの所に…
「おーい、もう寝てんだからいたずらすんなよ。」
寝ていたはずの伊吹さんは鉄球をキャッチすると、九重さんの方に投げた。
志摩さんはその光景にふっと吹き出した。
「Aもちゃんと寝ろよ」
「あ、ばれてましたか」
目は合ってなかったからばれてないと思ったけど、さすがの観察眼。志摩さん凄い。
話しかけられると眠くなくなるんですよ。と言い訳をして上体を起こすと、胡坐をかき腿に肘をついて頬杖をついた。
そのまま九重さんの皿洗いする様子を見守る。
「…私夜行性なんで眠れないんですよ」
「お前は猫か」
「褒め言葉として受け取っておきます」
水でも飲もうとベッドから飛び降りてキッチンに立つ。
皿を洗っているところごめんね、と横から水道水をグラスに注ぐ。
「そういえば…」
「ん？」
視線を感じて右隣の九重さんをちらっと見上げると、きりっとした瞳と目が合った。
でも、一瞬揺らぐと「いえ、なんでもないです」と目を逸らされた。
何か聞きにくいことだったのだろうか。今度二人の時に聞いてあげよう。
グラスの水を飲み干すと、今度こそ寝ようとベッドに潜り込んだ。
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作者名：古町小町 | 作成日時：2020年10月12日 0時
