コウモリ傘【灰谷竜胆】 (ページ26)

今日:19 hit、昨日:1 hit、合計:27,253 hit

【攻防戦3】ページ26

「おかえりなさい」

さっぱりした顔でお風呂場から出てきた竜胆さんは、あの雨の日にディスカウントストアで買ったスウェットを着ている。
日付が変わって30分。私は使わせてもらっている部屋の前で、リビングに戻ってきた竜胆さんを迎えた。

「なんでそこにいんだよ」

俺の部屋じゃねえの？って顔。口には出さないけれど、もう一回心の中で竜胆さんに謝っておく。

「おやすみなさい、竜胆さん」

「は？一緒に寝るっつっただろ」

「だから寝るんです、一緒に。同じタイミングでそれぞれ部屋に入って」

え、とまた目を見開いて固まっている。
上げて落としたことに少しの罪悪感を感じながら、竜胆さんに背を向けた。見えない竜胆さんがどんな表情をしているのか気になるけれど、振り返らずにドアノブに手をかける。

「え？」

冷たいドアノブを握る手に、温かい大きな手が被さった。体はふわりと、石鹸の清潔感のある香りに包まれる。

「回りくどい言い方、もうしねぇ」

「何言って……」

「お前と寝るから！」

「ッ──！」

有言実行とばかりにドアノブを押した竜胆さん。そのまま体を押されるようにして、二人して部屋へと飲み込まれた。

結局この後、どんなに言っても竜胆さんが折れることはなく、このままでは私の就寝前の攻防戦──その防御率がみるみる下がる未来しか見えない。受け入れ難い未来に、目の前が真っ暗になっていった。