コウモリ傘【灰谷竜胆】 (ページ16)

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【ズキズキと】ページ16

(竜胆視点)

温かい感覚を感じて目が覚める。
固い床の上。ローテーブル。そして、体にも昨日の酒が残っている。

「頭、いてぇ……」

一緒に飲んでいたはずの兄貴はいない。たぶん自分だけしっかりベッドで寝てやがる。そういうとこだと思いながら、嫌気のする痛む頭に寝直そうと手近にあったでけぇクッションを抱きしめた。

あ？でけぇクッション……？
んなモン家には──。
　

「は？」

視線を移すと、腕の中にはAがいた。
連れてきた覚えはない。誰にも話してないんだから、俺以外がAを知るわけないし連れて来れるわけもない。

考えて、数秒。すぐに悟る。
兄貴だ──。

「このためかよ……」

家で飲もうは、こいつの事を聞くためだ。話した……ような記憶はある。何話したかまではあんま覚えてねぇけど。

「どうすんだよ」

関わった事がバレないようにした。情け、みたいなモン。けど、こいつの家を出てからも変に気になって。熱い額に当てられた冷たい手が頭から離れなくて、建物から追って情報を集めた。

ちょっと、少しだけ──、Aのことを知ってるだけでよかったのに。
関わっちまったことが他の奴らにまでバレたら、最後じゃねぇか……。

「くそっ！」

ますます頭が痛くなった。気分も最悪だ。

「ん……り、んどうさ……」

「あ？起きたのかよ」

「……はい。おはよう、ございます」

「はよ」

とろん、とした目を向けるAは、警戒心のない顔で俺を見る。覚醒してない頭と縛られた手足。もそもそと動く姿はダンボールや筒にスッポリハマって抜けられなくなった猫みたいだ。

「いえ、かえる……」

「あー、それ無理。もっかい寝てくんねぇ？」

手足を縛っている布を解いて、できるだけ揺らさないようにAを抱えて部屋に運んだ。

「い、え……」

「起きたら送ってやる」

ベッドに腰掛けて、寝かせたAの頭を撫でてやる。

「寝んの早っ」

すぐに聞こえ始めたすよすよとした寝息に思わず笑いが溢れた。
Aを送るのは嘘だ。兄貴の意図はわかんねぇけど、バレた以上“送る”は違う意味になる。

なんでわざわざぶっ壊したんだよ！

奥歯を噛む音が耳の奥に響いて、締めつけてくる胸の辺りを握りしめれば、シャツにシワが寄った。

いやだ──。

　
あの雨の日、額に当てられた手の感触が蘇った。