【夢か現か】 ページ11
柔らかい、暖かな温もりに包まれる。
誰かに頭を撫でられているような安心感と心地よさがあった。
2日ぶりのベッドは、フカフカだった。
温かくて、いい夢だ──。
「感謝、してる……」
「ん……元気に、なったんですね」
「お前のおかげ」
「おっしゃる……とおり」
空気が鼻から抜ける音がする。
誰かが、優しく笑ってる?
「ここには誰も来てねェし、お前は誰とも会ってない」
「……は、い」
「ん。ゆっくり寝てろ」
意識はゆるゆると心地よさに沈んでいく。
ガチャリ、と遠くで音が聞こえた気がした……。
「世話ンなった」
「──!」
目が覚めるとベッドの中だった。いつもの寝具。竜胆さんはどこにもいないし、ハンガーにかけていたスーツもワイシャツも、ネクタイも。一式なくなっている。
「……出て、行ったんだ」
関わりがなくなったことに、安堵のため息が出た。それと同時に、ほんのちょっとだけもう少し話してみたかったかもしれない、という気持ちが顔を出した。
そして、いやいやと首を振る。
竜胆さんが、何も聞かなかったのはそういう事だと思う。私も名前を言われるまでは知ろうとしなかった。
関わり合いにならないように、してくれたのだろう。夢だ、と思っていたあれは、竜胆さんがベッドに運んでくれたんだ。
使えない女発言で、第一印象はなんて奴だと思っていたけれど、意外といい人だったのかもしれない。
私しかいない部屋は、いつもの光景だ。
風が過ぎたみたい。本当は“竜胆さん”なんていなくて、ずっと夢を見ていたんじゃないかと思うほどにいつも通り。
けれど、視線をソファへ向けるとスウェットと包帯が置かれていた。ベッドサイドのゴミ箱の中には、ジェルが干からびた冷えピタがある。
そこにいた。ちゃんと跡がある。
夢じゃない!
日曜日、午前──。
なんだか少しだけ嬉しくなって、私は再び布団の中で丸くなった。
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作者名:はいず | 作成日時:2022年7月31日 22時