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『今は、訓練はしてないの?』
「ええ……というか、僕ら会計委員会の下級生は、委員会の仕事も出来ていないんです」
左門くんの話によると。
左門くんは三年生で、学園の予算管理や決算を行う会計委員会に所属しているという。
会計委員会の委員長はとても訓練が好きな人で、匍匐前進や池で寝るといった修行を委員会内でも実施していた。
しかしそれは今ではほとんどなくなり、会計の仕事もほぼ上級生二人が回すようになってしまったらしい。
……この話を聞いて、私の脳内に最初に浮かんだのは、疑問だった。
『……どうして、訓練がなくなっちゃったの?それに、仕事も』
聞けば、訓練は大変だったけど皆意欲的に参加してたというし、突然仕事を上級生だけで回し始めるのもおかしい。
左門くんは表情を曇らし、言葉を詰まらせた。
「それは……」
『……あ』
そんな様子を見て、私はあることを察する。
『もしかして、天女……?』
「……はい。すみません、こんな話」
左門くんは、苦しげに頷いた。
私は、大きく首を振る。
『もし良ければ、嫌じゃなかったら……その話、私に聞かせてくれないかな』
「えっ……はい」
本当は、聞くのは少し怖い。
けれど、向き合わなければならない……そう、思ったのだ。
左門くんは、ゆっくりと、絞り出すようにぽつりぽつりと語りだした。
「……Aさんの2人前の天女様がいらっしゃったとき、上級生のお二方は相当天女様に惚れ込まれました。けれど、天女様は僕ら下級生の事を気に入らず、やがて上級生も、僕らに冷たくなったんです」
ここでようやく、崖で手を掴んだ時の、"なぜ下級生の僕を助ける"という左門くんの言葉の意味がわかった。
聞けばやはり天女のした仕打ちは酷く、聞いていてとても辛くなるものだった。
「……それで、天女様が天に返されてから……先輩方はまるで壊れ物のように僕らを扱うようになりました。」
『壊れ物……だから、仕事や訓練も』
罪滅ぼし、と言ったところなのだろうか。
左門くんは言葉を続ける。
「……きっと、天女様のことを気にされてるんです。でも僕らは、確かにひどい事をされたけど……それでも、本当の先輩方は優しいって知ってるから」
「大変だったけど、楽しかったあの頃に戻りたいって……そう思ってます」
_暫しの沈黙。
『……ねえ、その気持ち、先輩に伝えてみたらどうかな』
「え…?」
左門くんは驚いたように顔を上げた。
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海鈴(プロフ) - 桜さん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて本当に嬉しいです。また頑張りますね! (8月28日 20時) (レス) id: d23310e530 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - 更新をずっとお待ちしていた作品なので本当に本当に嬉しいです…!!これからも、陰ながら応援させていただきたいです! (8月26日 8時) (レス) id: 17751e89f9 (このIDを非表示/違反報告)
海鈴(プロフ) - 麗羅さん» お久しぶりです、コメントありがとうございます!そうなんです……。あっちはいろいろ慣れなさすぎて、一時帰国ではなく日本にずっといたい位です笑更新頑張りますね! (8月24日 1時) (レス) id: d23310e530 (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - 更新ありがとうございます!海外留学中だったのですね……。すごいです!これからも応援しているので、作者様のペースで更新頑張ってください! (8月21日 22時) (レス) @page26 id: 5152279fe6 (このIDを非表示/違反報告)
海鈴(プロフ) - ソランさん» こんにちは、コメントありがとうございます!まちまちの更新にはなってしまいますが、頑張っていきますね! (8月21日 1時) (レス) id: d23310e530 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海鈴 | 作成日時:2022年8月13日 22時