溺れて、みずうみに (ページ44)

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数日間休んでいた仕事に行くと、職場の人みんなが自分のことを心配してくれた。

警察に行ってしっかり対処してもらったと伝えれば、自分の事のように安心してくれた。

特にあの日一緒に仕事をしていた館長とバイトの子は申し訳なさそうにしてたけど、私の無事な姿をみてほっとしたのか、仕事はいつも通りこなしていた。

図書館職員の温かさが身に染みる。

1人だけ腑に落ちない顔でこちらを見つめているけど。

「Aちゃん。」

2人で本の整頓をしている時に、彼女はじとーっとした目ですごく見てきた。

なんでこういう時に限ってこの人と2人の仕事なんだろう。

「なんですか、河原井さん。あ、その本この棚の3列目です。」

「あ、ほんと？ありがとう！…じゃなくて！」

こういう時の河原井さんは引くということを知らない。

ずいっと距離を縮めてくる彼女をかわして隣の棚の整理に移った。

「なんか、変。」

彼女は無駄に鋭い。

「何も、ないですよ。」

そう言えば、さらに不機嫌そうにする。

「相談してよ。力になりたいの！」

お礼だけ言って仕事に戻ると、河原井さんは不貞腐れて別の棚整理へ行ってしまった。

相談するようなことじゃない。

ただ私が忘れるのに時間がかかってるだけだから。

「…」

私の世界はいつになれば、彼が居なくても色がつくようになるのかな。

「ごめんな、遅くなっちゃって。」

「こっちこそごめんね、あんなことあったのにまた送迎とかさせちゃって。」

「お兄は可愛い妹のためなら何でもしますっ！」

「ふふ。ありがとう。」

仕事終わりに迎えに来てくれた兄の車に向かえば、兄は近くのコンビニで買ったであろうカフェラテをくれた。

助手席に乗って、兄とたわいない話をする。

運転する兄をちらりと見た。

亮平が重なってみえてしまうから、重症だ。

私が彼を振ったのに、後悔する資格なんかない。

ぐっと手を握りしめた。

兄もそんな私に気づいて様子を伺っている。

少し車内の空気が重い。