溺れて、みずうみに (ページ43)

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そんな願いも虚しく、数時間後にはかかってくる彼からの電話。

出たら私たちの関係は終わる。

その事実が少し出るのを躊躇わせたけど、母の言葉が指を動かした。

震える手で画面をタッチすれば、すぐに彼から嬉しそうな声で話しかけてきてくれた。

「もしもし。」

「もしもし。忙しかった？」

「いや、今終わって帰ってきたところ。」

「そっか。お疲れ様。」

「ありがとう。そっちこそ、お疲れ様。」

「ありがとう。」

「警察は？行ってきた？」

「うん。全力で犯人を見つけ出します、だって。」

「よかった。またなんかあったら呼んでね？なるべくすぐ駆けつけるから。」

『貴方が彼の人生を壊す可能性だってあるのよ。』

言わなきゃ。

「亮平。」

言わなきゃ。

「ん？」

言うんだ。

「A？」

「もう、会えない。」

そう言うと、彼は何も話さなくなった。

しばらくして「なんで？」と震えた声で尋ねる亮平。

ここで私が理由を言えば、彼はきっと私を引き止めてしまう。

だから何も言わずに、平気なフリをして言葉を紡いだ。

「お別れ、言わなかったの失敗したなって思ってたの。」

「A、」

「ごめんね、亮平。ダラダラと長い間付き合わせちゃって。すごい楽しかった。」

また沈黙が続く。

それを破ったのは亮平だった。

「俺、迷惑だった？」

「…」

「俺のこと、好きにはなれなかった？」

違う、違うよ亮平。

迷惑なんて思ったことない、好きになれなかったわけがない、大好きだった。

前からずっと、私は亮平のこと忘れられなかったよ。

嬉しかったんだよ。

でもそれは言うことが許されないものだ。

私はただ謝ることしか出来なかった。

どう電話を切ったかは覚えていない。

今日で彼との関係が終わったことだけが明白だった。

やっぱり、私たちは “ みずうみ ” に溺れている。