溺れて、みずうみに (ページ33)

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「Aちゃん。」

「…あ、はい。すみません、集中します。」

「少し休憩しておいでよ。」

「大丈夫です、体調が悪いわけじゃありませんから。」

私はまた手元の本に目を向ける。

亮平がいない中での私の逃げ場は、自然と本の中になった。

本は裏切らない。

昔から染み付いたその考えはどうやら抜けていなかったらしく、図書館職員であることをいいことに空いた時間はひたすら文字を目で追った。

人と接するのが怖くなって、河原井さんとも上手く話せなくなり、悲しい顔をさせることが多くなった。

「あの。」

「はい。貸出ですか？返却ですか？」

「貸出で。」

「かしこまりました。」

隣からの心配そうな視線に気づかないふりをして、業務をこなす。

「Aちゃん、警察行こう？」

「…」

「見てられないよ、ね？」

河原井さんはずっと心配していてくれていたのか、ストーカーについて書かれているサイトを見せてくれた。

「…でも、私ストーカーが誰かわからないし。」

「あ…」

「脅迫をされたわけでもないし、兄の怪我だって、そう思わせる紙が送られてきただけで確信はないし。」

「警察に相手にされないかもしれない。」と言えば、河原井さんは泣きそうになりながら私を抱きしめてくれた。