溺れて、みずうみに (ページ25)

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彼が連れていってくれた神社やお寺には人が全然いなくて、わざとそういう場所を選んだということはわかりきっていた。

でもしっかりと調べてきてくれた彼の説明やうんちくのお陰で凄く楽しかったし、何よりも狛犬の顔の違いに気づけて面白かった。

「ちょっと見てこの狛犬、やばい、さっきの神社と顔が全然違う！」

「ほんとだ。」

「さっきのはめっちゃ怖い顔つきしてたけど、こっちはすごいゆるキャラみたい！」

「なんか可愛いね。」

「ね！やばい、私狛犬にハマりそう。」

「あはは。いいね、俺も狛犬マニアになろうかな。」

色んな角度から写真を撮って、最後に拝む。

1人で来ていたら絶対に気づくことがなかった物を発見出来て、嬉しかった。

やっぱり亮平の傍には私の知らない色鮮やかな世界が広がっている。

そうこうしているうちにお腹がすいてきて、ちょうどあった出店で何か買うことになった。

「こういう出店の焼きそばって異様に美味しいんだよね。」

お祭りに行くことを許されていなかった私は、兄がこっそり買ってくる屋台の食べ物とお祭りの匂いしか知らないけど、他のものと比べ物にならないくらい美味しかった。

「わかる。でも焼きそばはなさそう。」

「えー。たこ焼きは？」

「んー…あ、あった。あれじゃない？」

「わっ、あった！亮平ナイス！」

ふとした拍子に名前を呼んでしまい、はっとする。

ここは外で、亮平は気を遣わなきゃいけないのに、呼んでしまった。

そんな私を不思議そうに覗き込む彼に謝ると、なんでもないように笑ってくれた。

「亮平、なんて名前の人、世の中にたくさんいるよ。」

「でも、もしファンの人がいたら、」

「阿部亮平！って叫んだわけじゃないんだし、気にしないで？」

頭に置かれた亮平の手は、温かかった。