溺れて、みずうみに (ページ21)

今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:59,275 hit

２１ページ21

色んな感情がごちゃ混ぜになって、泣きたいわけじゃないのに泣きそうになる。

そんな私に気づかずに、亮平は言葉を紡いだ。

「忘れなかった日がなかった、なんて綺麗事は言わない。でも明らかに俺の中にAへの気持ちは多かれ少なかれずっと残ってたし、A以外に好きになれる人もいなかった。」

「亮平、」

「デビューも決まったんだ。」

止めようと口を開けば、また新たに投下される爆弾。

デビューが、決まった。

それは傍で頑張りを見ていた私にとって、これ以上ないくらいの嬉しいニュース。

そんな大事な時期に、彼の足を引っ張ることはしたくない。

「だったらなおさら、」

「でも、俺は覚悟を決めてる。」

真っ直ぐに言葉をぶつけてくる亮平。

もう何も言えない。

「Snow ManもAも守るっていう覚悟、俺はもうしてる。あの頃の世間からの目にビビってた俺とは違う。」

「…」

「もう後悔したくないんだ。」

「亮平…」

「好きだよ。」

亮平の手が頬に触れた。

あの頃、私の前で彷徨っていた時と違う、真っ直ぐに伸びた手を、振り払うことなんて出来なかった。

「ねぇ、俺、今拒否られてないってことはさ。少しは期待していいんだよね。」

「…」

「答えは今じゃなくていい。さっきも言った通り、俺も一応芸能人だし、万が一何かあった時につらいのはAだから。Aの心の準備も必要だって、ちゃんとわかってる。まぁそんなこと絶対させないけど。」

彼を見つめながら、ふと私に正面から向き合ってくれる兄を思い浮かべる。

私もそんな風に亮平に向き合いたいって、この前心の中で思ったばっかじゃない。

私ばっかり逃げて、かっこ悪い。

今の私は、父の脅威に震えることはないんだから。

「だから、これからのAの時間に、少しだけ俺との時間プラスしてよ。」

少し震えていた亮平の手に私も手を重ね、そっと頷いた。