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「A。」
不意に名前を呼ばれ、肩が跳ねる。
恐る恐る彼を見ると、何かを決心したような真っ直ぐな目で私をみた。
「結婚、してないの？」
あぁ、まだ彼の中では結婚してることになってるのか。
これはどう答えるべきだろう。
事実を伝えるべきなのか、伝えるべきじゃないのか。
色々考えたけど、彼にはこれ以上嘘はつきたくなくて、本当のことを伝えることにした。
「結婚するって、なってたんだけど。」
「うん。」
「半年前、くらいかな。別の人と駆け落ちして、話がなしになった。」
みるみる怒りで顔を歪ませる彼に、若干焦る。
雰囲気を悪くしてしまった。
「まぁ、私自身乗り気じゃなかったし、別にお互い好きだったわけじゃなかったし。でも、」
でも。
私の早口な勢い任せの言い訳に無意識に続いたその言葉は、一体何を伝えようとした？
その先に出る言葉は私の中で無かったことにしなければいけないのに。
「でも、そうなるなら俺と一緒になりたかった？」
彼にその言葉を言われて、全身が熱くなった。
彼の顔は穏やかで、晴れやかだ。
彼がその後に何を言おうとしてるかわかってしまう自分が恨めしい。
「俺、」
「亮平、待って。」
「待たない。」
「っ。」
止めても止まる気配はなく、お互い言わないようにしていた言葉を、彼はあっさりと放った。
「俺、まだAの事好きだよ。」
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作者名：桜海 | 作成日時：2020年5月28日 23時
