溺れて、みずうみに (ページ18)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:59,276 hit

１８ページ18

土曜日の夜。

家に帰る時間がないから、仕事終わりに真っ直ぐ待ち合わせ場所にいくけど、当たり前に彼は来てなかった。

時計は待ち合わせ時間のだいたい40分前を示していた。

外で待つのはちょっと嫌なので、近くの小さな雑貨屋で待たせてもらうことにした。

雑貨屋の窓から、彼が早歩きで歩いてくるのが見えた。

マスクをして、女優帽を深めに被っている彼は、私のいる雑貨屋に背中を向けて、ソワソワと周りを気にしている。

意地悪しないでさっさと出ていってあげよう。

「はぁ…」

「幸せ逃げるよ？」

「うわぁ！？」

彼は面白いくらいに飛び跳ねた。

これでもかというくらい目を見開く彼に、私はあの頃と同じように笑いかけた。

「久しぶり。」

「ひ、久しぶり…」

「ごめん、ちょっとだけ驚かせるつもりだったんだけど…いや、驚きすぎじゃない？」

「いや…うん…」

いつまでも固まる彼に、もう笑いが止まらない。

「あはは、なんか変わってないね。」

「そっちこそ。」

「そう？」

「うん。」

やっと落ち着いてきた彼と、当たり障りのない友人としての会話をする。

時々切なそうに目を細める彼に気付かないふりをして、目的地へと歩き出した。