私はわたしー愛しい距離４ー

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最寄駅に降りてから走ると、

風を切る音がダイレクトに聞こえる。


それに冷たい空気が胸に吸い込まれて、少し息苦し

い。



走っている間、さっきまで一緒にいた加納くんの顔が

脳裏によぎる。




嘉ー…名残惜しいですけど、それなら仕方ないですー




苦笑いでそう言った彼を、あの場に置いて走り出した

私はつくづく自分勝手だと思う。



だけど…、だけどそれでも走り出す足を止められなか

った。





走りに走って目的地に着くなり、空高く聳え立つ目の

前のマンションを、息を整えながら見上げる。




「はぁっ…、はぁっ…、はぁっ…、」




そして鞄の中から携帯を取り出して、慎くんとのやり

とりをしていたSNSのメッセージ画面を開くと、それ

は私の既読スルーで止まっている。




「って、なにやってんだろ…私…。」




本能のままに来てしまった壱馬くんのマンションを前

にして、今やっと我に帰った。



いくら慎くんからメッセージを貰ったとしても、来る

べきじゃなかったよね…。




くるりと方向転換をして、元来た道を戻ろうとした瞬

間、



慎「Aさん？」



なんと目の前には、コンビニのビニール袋を手に持ち

様子を伺うような顔で立つ慎くんと鉢合わせしたの

だ。



「慎くん？！」


慎「やっぱり来てくれたんすね！Aさんなら絶対

来てくれると思ってました！」



「えっ…？！あっ…いやっ…、」



慎くんは私の言葉など聞かずに、パァッと笑顔になっ

て近寄って来る。




慎「じゃ、さっそく行きましょう。」

「えっ？！ちょちょちょ、ちょっと待って！！」



ズンズンとエントランスに歩き出した慎くんの腕を、

咄嗟に掴む私。



「いやっ…、やっぱり私は行くのはマズイんじゃない

かな〜って…、」


慎「ここまで来といて？笑」



慎くんはニヤニヤしながら、ごもっともな事を言う。




そりゃそうだ…。

ここまで来ておいて、躊躇するなんて意味が分からな

いよね…。



慎「それに、僕からのSOSをこの場に及んで無視する

気ですか？」



だけど、今度は少し不貞腐れたような態度で目を細め

る慎くんに、私は慌てる。



「むっ、無視するわけじゃないけど…でも！」


慎「じゃぁ、早く行きましょ。壱馬さんが待ってま

す。」


「ちょっ！待って！」




そう言って先に歩いて行く慎くんの背中を私は追いか

けながらも、しぶしぶエントランスに足を踏み入れ

た。

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